「アイドル防衛隊ハミングバード」~声優イベントの起点~

 アニメーションの中のアイドルが歌う。それがCDとなってヒットする。しかもその歌曲が作品のイベントで歌われる。そのイベントはまるでアイドルのイベントやコンサートのように盛り上がる。現在では当たり前となったアニメ界のビジネススキームだ。その起点となったのは「超時空要塞マクロス」(1982年)のリン・ミンメイだろうし、その後スタジオぴえろが世に送り出した「魔法の天使クリーミーマミ」(1983年)はマクロスに続くものだった。作中の主役グループの声優たちが、そのままボーカルグループを結成し、ファンの間で大ヒットとなった作品もある。「鎧伝サムライトルーパー」(1988年)がそれだ。で、長ずるにおよんで現在隆盛を極めている深夜アニメの多くで、OPやEDを主演やレギュラーの声優が歌い、イベントで人を集めており、CDをはじめとするグッズが売れている。もちろん往時の勢いこそ失速気味で、近年は映像ソフトをはじめとするグッズが売れにくくなっているものの、こうしたビジネススキームがほぼ一般化されたといってもいい。先に羅列した作品は、こうしたビジネスが確立する一連の流れの起点に位置する作品ではあるが、こういったビジネス熟成する過程にあった作品を、今回はご紹介したい。それがOVA「アイドル防衛隊ハミングバード」シリーズである。

アイドル防衛隊ハミングバード DVD-BOXアイドル防衛隊ハミングバード DVD-BOX
(2001/09/07)
三石琴乃、玉川紗己子 他

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<作品概要>
 「アイドル防衛隊ハミングバード」は1993年から1995年にかけて4作品がリリースされたOVA作品。原作は吉岡平氏によるラノベで、当時は富士見書房より発売されていたが、現在は絶版になっている。最近では同じ吉岡氏の作品である「無責任艦長タイラー」シリーズがノベルズサイズでリニューアルされて販売されているが、かつての人気作品が絶版やレーベルの消滅によって読めない事態が多々起きている。本作はたった2冊の刊行ではあったが、どうせなら再販してほしい作品だ。
 物語は、ある日突然、日本政府が自衛隊を民営化すると言い出したために、なぜか民間の芸能事務所に払い下げられた。各事務所はパイロットをアイドルに仕立て上げ、スポンサーの獲得と人気取り、そして正体不明の外敵の攻撃から日本を守ることに血道をあげるようになる。そんな中、かつての航空自衛隊のエースパイロットの娘たちがデビューする。それが取石葉月社長の娘たちからなる「ハミングバード」、長女・神無、次女・弥生、三女・皐月、四女・卯月、五女・水無の5人だ。祖父の作った専用機を駆り勇躍する彼女たちは、パイロットとしての技量もさることながら、そのルックスの良さからすぐに人気者になる。対立する矢島オフィスによる度重なる妨害に会うのだが、周りの人物たちの協力や自分たちの機転によって、そのたびに危機を乗り越えていく。そしてかつての海外派兵の際に行方不明となった父親の行方を案じながらも、三女の皐月(さつき)はパイロット大賞を目指して、アイドルに国防にと多忙な日々を暮らしていく。
 多忙を極める芸能活動の中でハミングバードの面々は、矢島オフィスがハミングバード対策として送り込んできたフィーバーガールズの二人と激しくぶつかることになる。とはいっても水泳大会やビーチバレー大会だけどw そんな中で次第に友好を深めていく皐月とフィーバーガールズの二人。ハミングバードの活躍を見ながら、フィーバーガールズは海外での武者修行へと旅立っていく。だが彼女たちが向かったその先で、輸送機の護衛任務に就いていた時、謎の敵による襲撃に会い、二人は行方不明になってしまう。この報を聞いた皐月は、すぐにでも二人の救出に向かいたいと願うものの、海外での戦闘行為をしたパイロットはパイロット大賞の選考から外れてしまう規約があるため、すぐには動き出せずに悩んでしまう。さあ、皐月たちハミングバードはどうするのか?フィーバーガールズの運命は?謎の敵の正体とは?

<パロディとアイデアと・・・>
 本作の原作者である吉岡平氏は、この他にも「無責任艦長タイラー」シリーズもアニメ化されている。そもそも「タイラー」は「もし宇宙戦艦の艦長が植木等だったら?」というifからスタートしている作品だ。この下敷きになっているのが植木等をはじめとするクレイジーキャッツの面々が出演した「無責任シリーズ」という映画作品であり、スチャラカで場当たり的に行動する植木等演じる男が、さまざまな問題に直面しつつも、持ち前の行動力と無責任によってなんとな~く問題解決してしまう物語が人気を博したシリーズだ。この植木等が宇宙戦艦の艦長となるとどうなるのか?というifをベースに小説が成立しており、アニメもまた同様の作りになっている。本作にしてもまったく同じで、「自衛隊員がアイドルだったら?」や「サンダーバードの5人兄弟が美少女たちだったら?」というifからスタートしている企画であるだけに、本作にちりばめられているパロディともオマージュともつかないネタの数々に、頬が緩むのは筆者だけではあるまい。
 「アイドル」の部分でいえば、男性アイドルチームのために的になる仕事を引き受けたデビュー前のハミングバードの姿が描かれているが、パイロットとしての技量の差から逆にハミングバードの面々が苦労を強いられることになる。ハミングバードの下積み時代のエピソードといったところだろう。デビュー後の活動はテレビの出演に歌番組とハードなスケジュールをこなす中、空母の上での水泳大会(笑)にビーチバレー大会と続くことになる。ビーチバレー大会はなかったとしても、水泳大会というのが懐かしい。これもアイドルらしい部分だ。
そして毎回のお楽しみは、彼女たちの圧巻のステージパフォーマンスだ。本作発売当時である90年代というのは、宮沢りえ、観月ありさ、牧瀬理穂のいわゆる「3M」が人気の中心にあり、いわゆる歌手活動を主とするアイドルはなりを潜め、グラビアやドラマを中心に活躍するアイドルが増えた時代で、いわゆる「アイドル氷河期」といわれた時代であった。安室奈美恵やモーニング娘。などが台頭し始めるまでにはまだ間があった時代。そんな状況下で人気を博したのが「東京パフォーマンスドール」(TPD)のステージだ。本作のステージについてはTPDのステージの意匠が取り込まれている印象がある。派手目で奇抜な衣装にダンスを中心とした構成、ステージを大きく活用する彼女たちの動きや演出を見るにつけ、かつてのTPDの面々が繰り広げたステージングを思い起こさせる。

 一方で「サンダーバード」な部分といえば、ハミングバードの娘たちの祖父に当たる人物によって、彼女たちのオリジナルの機体が割り当てられている。1~3号機までは戦闘機、4号がステルス機の形状の大型空中母艦、5号機は攻撃ヘリの構成だ。1号機が制空戦闘機というのは、サンダーバード1号がどんな状況下でもいち早く現場に到着するように設定された機体であるから、この1号機の設定は間違いなく「サンダーバード」を引き継いでいる。また2号機のVTOLもまた大型輸送機ではないにしろ、サンダーバードの設定からのスピンオフといっていい。大型輸送機の設定は4号機にも引き継がれている。機体の両脇にある大きなエアインテークが特徴的だ。さて汎用機として仕上がっている3号機は、いわゆるロボットアニメに出てくる戦闘機然としたフォルムだ。全体的なフォルムは垂直尾翼を2枚備えたデルタ機で、山なりに盛り上がっている機体の頂部にちょこんと乗っかっているコックピットがユニークだ。ハミングバードはサンダーバードのような災害救助を主とした任務ではなく、あくまで国防なので戦闘機を中心とした構成なのはしかたがない。

<アイドル声優たちの宴>
 本作でもっとも特筆すべきことは、ハミングバードの5人娘を演じた5人の女性声優に人気が集まったことだ。玉川紗己子、天野由梨、三石琴乃、草地章江、椎名へきるの5人は本作の主題歌、挿入歌を歌うことになるのだが、本作の始動直後からまるで本物のアイドルのようなダンスと歌のレッスンを続けたという。そして大きな会場に多くの人を集めて、作品イベントを催した。そのイベント自体はそれまでの作品でもあったと思うが、本作のイベントはあくまで5人の声優による楽曲を中心としたコンサートであったのだ。名実ともに「アイドル声優」の誕生した瞬間だったわけだ。その模様はライブCDや映像ソフト(LD)として発売されて、こちらも売れに売れたのである。そして足掛け4年の活動期間を経て、1995年8月に渋谷公会堂でのステージを最後に彼女たちは解散したのである。作品のビデオやLDを含め、関連アイテムはCD、本、カセットと枚挙にいとまがない。筆者もmovicから発売されたドラマカセットをいまだに所持している。ちなみに草地章江と椎名へきるの二人は本作がデビューである。特に椎名へきるのその後の活躍を見れば、彼女の起点となった作品でもある。

「アイドル防衛隊ハミングバード」の楽曲は、前述の通り「東京パフォーマンスドール」を手本にしたようなグループアイドルにふさわしい楽曲である。同じフレーズによる歌唱の入れ替えや掛け合いなどは徹底している。またアイドル歌曲としての隙もあるから、ファンの側から入れる合の手も入れやすく、想像しやすい。そして何より一人の少女の恋愛模様の悲喜こもごもが曲のイメージのベースにあり、統一感がある。デートを目の前にしたドキドキや、別れの予感をそこはかとなく感じてみたりと、一人の少女が恋を知って大人の女性になるためのすべての過程が、彼女たちの楽曲によって網羅されている感じなのだ。とてもいい曲なので、アイドル好きの向きにはきっと現在でも楽しめると思われる。(あまりこういういい方は好ましくはないが)いわゆる「地下アイドル」と呼ばれるみなさんには、ぜひともカバーしていただきたいと思える楽曲群である。

 これ以前、声優に注目が集まったのは92年にスタートした「美少女戦士セーラームーン」に主演した5人の女性声優だろう。その少し前だと林原めぐみの存在が大きい。このころが女性声優のブームだった。「セーラームーン」に主演した女性声優を起点に「アイドル声優」という言葉も生まれ、彼女たちは歌に舞台にアニメにと活躍の幅を広げていく。そしてその後のアイドル声優によるステージやコンサートは、アニメビジネスの中核となっていく。この前後だと藤島康介氏原作によるアニメ「逮捕しちゃうぞ」や「ああっ女神さまっ」なども、こうした女性声優を中心としたイベントが華やかに行われたし、ゲームではあるが後にアニメにもなる「サクラ大戦」などのステージもこれに類する。多くの女性声優のコンサートや女性声優を中心としたイベントの数々は、この時期を境にスタートし、現在までのムーブメントにつながっていく。「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」などのイベントやコンサートなどは、まさにこうした流れの延長線上にあるものなのである。その起点にある作品の一つとして、「アイドル防衛隊ハミングバード」は記憶にとどめたい作品である。


SISTERSSISTERS
(1995/12/25)
Humming Bird

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彼女たちの歌曲のベスト盤です。
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波のまにまに☆

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ピカード艦長が大好物。
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