映画「スチームボーイ」~スチームパンクの大事なところ~

 たまさかCSで放送されていた大友克洋監督の「MEMORIES」を見て、大変楽しかったので、レンタルで借りてきてもう一度楽しんだ。この「MEMORIES」は3話のオムニバス形式の作品で、近年「SHORT PEACE」でも似たようなオムニバス形式の作品を送り出している。このついでに大友克洋監督作品を見てみようかという気になったので、長いこと手を出さずじまいだった「スチームボーイ」を見てみようと思い立った。
 どうして手を出さずじまいだったか? 一つは公開当時あまりにも評判が悪かったからだ。いやそれでも見に行こうとは思っていたのだが、なんとなく気おくれしていた内に、なんとなく見過ごしちゃったのだ。今一つの理由は、この作品がいわゆる「スチームパンク」と呼ばれるSF作品だったことだ。このスチームパンクというのが厄介で、筆者自身、スチームパンクというものがどういうものか、それこそ「怪傑蒸気探偵団」ぐらいしか知識として持っていなかったので、触れにくかったという思いがある。その後このスチームパンクに相当する作品を見た記憶もなく、ここまでほったらかしにしてしまったというのが、偽らざる真実である。そこで知っている人には釈迦に説法だろうけれど、まずは「スチームパンク」というもののあらましから本文をスタートしてみたい。


<スチームパンクとは?>
 そもそも「スチームパンク」とはどんなものだろうか? 毎度wikiからの引用で申し訳ないが、要約すれば以下のようなものだという。
 「スチームパンク」とは「サイバーパンク」という言葉をもじって生み出された造語であり、80年代後半に誕生した言葉だそうだ。その意味するところはアメリカのSF作家であるK.W.ジーターをはじめとする幾人かの作家が発表したSF作品を総じて、この言葉を充てて表現したのが始まりで、SFのサブジャンルなのだそうな。その作品はH.G.ウェルズやジュール・ベルヌなどが発表したSF作品の影響を受けており、20世紀以前の世界を舞台としながら、当時の最先端技術である蒸気機関やぜんまいばねなどによる駆動機械を主軸としつつ、その能力を超えるオーバーテクノロジーによって物語が繰り広げられるタイプのSF作品をさすようだ。こうした背景を持つ作品を総じてスチームパンクというため、小説や漫画、映画、ゲームに至るまで、その枝葉は大きく広がりを見せる。例えば日本の作品で有名なところでは「天空の城ラピュタ」や「ハウルの動く城」、「鋼の錬金術師」、「サクラ大戦」などもこれに類するらしい。また「スチームパンク的ファンタジー」という分類があり、今より進んだ未来でありながら、本来あるべきはずの技術がロストテクノロジーとなっている世界を舞台とする物語がこれに類するらしく、「トライガン」や「未来少年コナン」がこれに当てはまるという。また歯車とぜんまいなどに傾倒した「クロックパンク」というジャンルもあり、「ぜんまいざむらい」や「がんばれゴエモン」シリーズなどが相当する。また真空管を使ってロボットを起動する「機神兵団」なども含まれるという。あらましを読んでもわかりづらいが、作品を見るとなんとなくイメージがつかみやすいか。ざっくりというならば、現在よりも以前か、さらに遠い未来かの別はあるが、その時代にあるテクノロジーとは別のオーバーテクノロジーによって展開するSF作品で、主たる技術が蒸気機関のものを「スチームパンク」というらしい。

 「スチームボーイ」は2004年に公開された作品で、総製作費24億円、製作期間9年をかけた大作であった。物語は19世紀に開かれた万国博覧会を背景に、オハラ財団で蒸気機関を使って技術開発している祖父より「スチームボール」を送られた少年レイが、それを契機にスチームボールをめぐって冒険を繰り広げる物語。兵器開発にいそしみ、その力を誇示したい父親と、あくまで平和利用を唱える祖父は対立しており、彼らの技術を狙うイギリスの企みもあって、レイは万博会場の目の前にそびえたつスチーム城へと拉致されてしまう。そこでレイは父と祖父に再会し、彼らの資金提供者であったオハラ商会の人に歓待される。レイの父と対立する祖父の行動によって、ついにスチーム城を起動させるレイの父。そのどさくさに紛れて彼らの技術を奪おうとするイギリス軍を蹴散らして、スチーム城は浮上する。だがやがてスチーム城は暴走を始める。それを止めようとするレイはスチームボールを使って飛び出していく。はたしてレイはロンドンが壊滅しようとする未曽有の危機を救えるのか? ラストにおけるレイの父によって起動するスチーム城の圧倒的な迫力と、その崩壊までの一連の流れは、圧巻の一語に尽きるアニメーションであった。またその動きにこだわりぬいた蒸気の動きの作画にも正直驚いた。この作品がスチームパンクといわれる最大の理由は、19世紀のヨーロッパ、それも万国博覧会の開催日あたりを舞台にしていること、その時代の技術の最先端が蒸気機関であること、そしてあまりにも大きな力を秘めた動力として「スチームボール」というオーバーテクノロジーが登場し、それが物語の中核にいることなどがあげられる。その意味ではまごうことなきスチームパンク的作品ではあるのだが・・・。

<何か片手落ち?>
 さてこの作品がまっとうなスチームパンクというSFのジャンルに属する作品であることはよくわかったのであるが、ではどうしてこの作品、そんなに面白いとは思えないのか? 理由はいくつか考えられるが、第一に画が暗い。特にスチーム城が動き始めてからこっち、明るい外の世界とは対照的に、中の画が暗すぎて何が起こっているのか分かりづらい。もちろん筆者は暗い劇場ではなく、明るいTV画面で見ているので、その差が大きく影響していることは認めよう。イマドキのハリウッド映画でも大いにあることなので、これだけがマイナス要因ではないのだが、まあ、これは実際大した問題ではない。

 実のところ、この作品はスチームパンクというSF作品のサブジャンルとしてもSF作品としては説明が不十分すぎると思われる点が散見される。
 先のスチームパンクの説明にもあるように、本来スチームパンクとはその時代に対するオーバーテクノロジーが登場し、それが物語を回していく構造であるため、この蒸気機関の時代に登場するオーバーテクノロジーの存在感がだいぶ重要になってくるのであるが、「スチームボーイ」という作品におけるスチームボールなるしろものが、「あの大きさに膨大な蒸気機関のエネルギーを蓄えている」という設定故に、あまり驚きがないのだ。もちろんあの大きさに対してスチーム城を起動させ、あまつさえ空中に浮かせるほどの力を秘めているのかと思いきや、ボールがなくてもスチーム城が起動しちゃうのであれば、その存在感はないに等しい。エネルギーとしての蒸気機関は石炭と水を使用し、石炭という資源を消費する化石燃料に頼るしかない旧世紀の異物ではあっても、原子力発電のような効果に対する危険性があるわけでもないので、あのボール一つにどれだけ大きな力が秘められていても、それがどれほどの能力を秘めていたとしても、原子力発電ほどのインパクトも問題提起もできなさそうなのだ。そうなるとスチームパンクという題材を選んだ時点で、この物語の弱点が露呈してしまうことになる。

 また「科学」を扱う物語であれば、最初の「ゴジラ」や「ジャイアントロボ THE ANIMATION」でも示された通り、科学技術に対する二面性について言及することが常となる。SFという作品群はえてして科学技術に関するアンビバレンツな表現とることになるのだが、そのアンビバレンツな状況をどう表現するかが大事になる。ところが主人公レイの父親が蒸気機関を使った兵器の開発に血道をあげ、それを否定する祖父がおり、さらにはそれを利用し、さらには敵対するだけの人物が配置されているだけ。つまり本作では蒸気を使った最先端技術を戦争に使うことの是非だけを問題としており、蒸気機関であるがゆえに、その技術や力の危険性を問うものは誰もいない。それはあまりにも片手落ちな内容で、お粗末にすぎる。最先端の科学技術を非難するのであれば、その力の両方を常に提示する必要があるのに、戦争利用されるという側面ばかりを強調しすぎていて、なぜいけないのか?の部分を考える余裕がないのだ。

 この科学技術の進歩という観点で俯瞰すると、手塚治虫の「メトロポリス」を持ち出すまでもなく、科学技術の進歩は、同時に労働者階級の否定でもある。安価の労働力を必要としてマンパワーを欲した前時代から、その技術によりマンパワーが必要なくなれば、資本主義社会としては資本投資を人にしなくなり、労働者から仕事を奪うという当たり前の前提が、まったく見られない。この部分は明らかに冒険譚を語る前提として、科学礼賛だけが先行し、蒸気機関というテクノロジーを甘く見すぎているがゆえの浅はかさに思えてしまうのだ。その結果、巨大なスチーム城が海や町を凍らせても、それをのんきに見ている人々がいるだけで、その事件による被害者を映し出さないため、その事件の重要性も事件性も、問題性すらも表現できているとはいいがたい。したがって画の表現だけでこけおどし的にスチーム城を派手に崩壊させ、物語をたたむしかなく、物語の終わりに希望も問題解決も見いだせないまま、「生きててよかったね」で終わってしまうのだ。物語のカタルシスとしてはあまりに希薄で充実感がなさすぎで、見ていてあっけにとられてしまう。

 もしこの映画で扱われるエネルギーが原子力をも超えるエネルギー効率の高い何物かであれば、どうあっても上記の問題提起に触れざるを得なくなるだろうか。こうなると本作の題材に蒸気機関を選んだ時点で、何とはなしに負け確定だったのかなと思わなくもない。とはいえ、もっと大らかにレイという少年の冒険譚として作るのであれば、少年に判断を迫る切迫したシーンがなければいけないだろう。ところがその選択肢のほとんどを父と祖父がしており、結局家族のうち父か祖父のどちらかにつくかという狭い家族の話に落とし込まれてしまっては、少年の冒険譚としてはむやみに矮小化されている気がする。しかも事態を理解しないオハラ商会の令嬢が無意味にちゃちゃを入れてくるので、邪魔なことこの上ない。もしこれが祖父の立場の人にまったくレイと縁もゆかりもない人間を設定していれば、家族の問題ではなく社会や世界へとつながる道が示されることで、もっとワイドな問題提起へとつながる可能性はあったし、令嬢がもっと自身の父親の会社の経営に理解を示していたら、レイとの敵対関係や家族との軋轢などが複雑にバックボーンを語り出すことで、レイと悩みを分かち合えたかもしれない。母親に愛されなかったなどというたわごとのように甘えた話で性格付けしようなんて、ロンドンを壊滅させるような未曽有の大惨事の前ではまるで意味がないのだ。

 この「スチームボーイ」という作品が傑作だなんて口が裂けても言えない。だがこの作品が「スチームパンク」というSFのサブジャンルに対して、表面的にさらっと触っただけの作品であることを念頭におけば、見るべきところは十分にある作品ではある。だが繰り返すがSF作品としては作品が本来内包すべき問題や話題を、あえて無視して作ってあることもあり、たいそうな製作費や製作期間をかけたわりには、中身のない話だったことがただただ残念でならない。当時のアニメーションとしての画づくりや技術、蒸気や煙を描写するテクニックを見ると出来物であるだけに、視聴対象を小学生ぐらいにするにはややこしすぎるし、大人と設定するには内容がないので、どっちつかずな印象もある片手落ちな作品という印象が強い。この作品以降で大友克洋氏が劇場用の長編アニメーションを制作していない事実が、何よりもこの作品の失敗を物語っていると思う。実に実に残念すぎる1本であった。
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