所轄内だけでクライムアクションは成立するか?~「逮捕しちゃうぞ the Movie」~

 「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!」といったのは、「踊る大捜査線」の織田裕二演じる青島刑事であった。これが意味するところは何か? 現場では巡査や巡査長などの末端の人間が、数百人体制で現場の捜査などにいそしんでいる。だが彼らを指揮・統率する人間は現場にはおらず、会議室で頭を付き合わせて、事件の対応に四苦八苦しているのだ。その時間的、空間的な距離感は埋めようもない。リアルタイムで動く現場の状況を、報告という形で受け取っても、その情報を処理するには、会議室内での判断を仰ぐしかない。決定的な何かを決断するときには、不都合な民主合議制である。「船頭多くして、船山にのぼる」とはまさにこのことだろう。
 だがその一方で、「警察」という機構において、末端を含めた組織体制が確立している証拠でもある。だからトップダウン方式での指揮系統が十分機能するし、全国の県警も、大型の事件の場合には、警視庁によるリーダーシップの上、行動することが出来るのである。「踊る大捜査線」の人気の秘密は、こうした警察機構と現場警察官の軋轢が、些細な事件の背景に見え隠れし、現実の地平に降り立っているバックボーンを持っているからだ、という指摘を友人から聞いたことがある。

 「所轄」。それは簡単に追えば警察組織の縄張りのことだ。それを超えてはいけない事実があり、超えた場合の捜査は「越権行為」となる。だが私たちが慣れ親しんだ「刑事ドラマ」は、この越権行為こそが、エンターテイメントとしての面白さを醸し出していたのではなかろうか?
 越権行為の最たるものは「西部警察」シリーズだろう。越権行為も甚だしい。他県に出かけていって派手に銃撃戦をやらかすのだから、地元警察もたまったもんではない。これではヤクザと変わらないではないか。

 だがよく考えてみて欲しい。殺人事件をおこした犯人が、逃走の末、西部署の所轄外に出てしまった。その時、大門団長が「逃走先の所轄にまかせろ」と言ったきり、マシーンRSやマシンZは出番を失うし、銃撃戦もありえない。しかも捜査課の部屋で、始末書かいてる館ひろしさんなんか、誰が見たいものか。「Gメン'75」にいたっては、香港なんかまで出張する。忘れてはいけない、その出張費はわれわれの血税だ。
 つまるところ、こうした「越権行為」が排除されれば、ドラマの盛り上げが無くなってしまい、これらの刑事ドラマは魅力を失うことになる。重ねて言えば、「踊る大捜査線」の魅力は、この越権行為の基本をわきまえた行動の中にある真実をあばきだしたこと、それによって警察機構であっても、人間が運営している組織であり、我々が日常働いている会社組織となんら変わることがないことを証明して見せたことにある。

 この「踊る大捜査線」の本質は、「機動警察パトレイバー」の劇場版2作品の影響を、多分に受けているという話だ。それとて越権行為は、だれもがあり得ないと思いながら、ドラマの波と共に、ラストの盛り上がりを成立させるための嘘として描かれている。捜査権限がない特車2課の面々が、なんで方舟を壊す必要があるか。すでに特車2課を離れた野明たちが、なぜ後藤や南雲のもとに集まってきたのか。それは「正義」という名の越権行為の結果だったはずだ。まあ特車2課には「所轄」の考え方に疎かった可能性もあるけれど。

 だがそういった「所轄」にとことんこだわったクライムアクションがある。「逮捕しちゃうぞ the Movie」である。本作の原作漫画は、1986年から1992年まで『モーニング・パーティー増刊』(講談社)に断続的に掲載されていた作品だ。作者は「ああっ女神さま」の藤島康介だ。1994年に発売されたOVAシリーズ(4作品)の後を受け、1996年からTBS系列にて放送開始。この劇場版はこのテレビ版の後日談となる。それ以降2001年、2007年にも続編が制作されている人気シリーズだ。
 基本となるストーリーは、墨東署の交通課に勤務する二人の女性警官、夏美と美幸の二人を中心に展開されるお話で、周辺キャラクターやマシンチェイス、日常話に至るまで、凝ったデティールで見せるストーリーが人気を博した。
 劇場版では、前作となるテレビ版ラストで、一度はコンビを解消した夏美と美幸が、再び墨東署にもどり、コンビを復活させた日からスタートする。久しぶりの復帰をものともせず、すぐに居場所を取り戻す二人。だが交差点の信号の不審な故障、放置車両に残された銃器の押収、銃器密売のたれ込みによる捜査と忙しい。翌日、突然蟻塚警視正の訪問で、風雲急を告げる墨東署。隅田川にかかる橋の爆破予告で、現場にかり出される署員であったが、その隙をねらって墨東署が襲撃される。なんとかこれを撃退する婦警たち、そしてこれが、「蜂一号」と呼ばれた、封印された警察署へのテロ・シミュレーションであったことを告白する交通課課長。夏美と美幸は、テロリスト達を追う。墨田区、隅田川を舞台に繰り広げられる、警察とテロリスト達のおいかけっこ。そして彼女たちにはヘリポートでの死闘がまっていた。テロの首謀者は誰か、不審な行動をとる交通課課長は、なぜ「蜂一号」を知っていたのか? その謎は東京タワーで明かされる。

 この話で発生する出来事のほとんどは、墨東署の所轄内で行われている。しかもその所轄の中で、カーチェイス、ボートチェイス、海上保安庁所属の船舶の活躍、ヘリポートでの銃撃戦まで行われている。刑事ドラマ、とりわけアクションを主体とするドラマではおなじみのシーンばかりだ。これをすべて所轄でまかなっている。しかもそのクオリティが高い。車のタイヤのきしむ音やガソリンの臭いまで香ってきそうな臨場感を持って、そのマシンの魅力を最大限に引き出している。
 特に後半、テロリスト達の逃走ルートを見誤った美幸と夏美が、ホンダTodayをヘリにつられて移動、テロリスト達の車を発見し、強引にヘリから離脱するシーン、かちどき橋があがり、その間を海上保安庁の船が通過するシーンなど、よくぞ映像化したと思えるアクションシーンが連続する。橋の管理者が、かちどき橋を操作する時、喜々とした表情を見せるシーン、それに続く橋の上昇シーンなぞ、劇場で見ていて少し震えが来たほどだ。
 
 重ねて言うが、これをすべて所轄でまかなっているのだ。この物語がいかに地続きであるかは理解いただけると思うのだが。それもこれも、この物語の核となる「蜂一号」というシミュレーションが、テロリストによる警察署襲撃という、きわめて小規模なくせに悪辣であるためだ。だが残念ながら、それゆえにどうしても、犯罪規模も部隊も、小さく狭いイメージが払拭できなかったことが悔やまれる。また、本作が初見の方にはかなり説明不足なことも、指摘しておきたい。これだけキャラクターが立っている面々がいるし、事件は刻一刻と進んでいくので、説明する暇もない過密なストーリーであったからだ。
 だがその尺ゆえに、本作は中だるみもなく、快く墨東署に迎えられてうれしそうにほほえむ夏美と美幸の笑顔を見るまで、一気に駆け抜けてくれる。ほぼ1時間半という上映時間も、ハリウッド的なスタイルで言えば、十分合格点だろう。原作やテレビ版を少しでも知っていれば、非常に楽しめる一本である。

 繰り返しになるが、この物語が「所轄」内でストーリーが完結していることに、まずは賞賛を送りたい。それは舞台となる場所の、綿密なロケハンにより成立している。「パトレイバー」の劇場版1作目でも、東京の取り残された風景を、きめ細かくロケハンしていった経緯が、特典映像に収録されているが、要はあれと同じである。橋を破壊することで麻痺する警察機能や、かちどき橋の上昇など、狭いエリアでも十分にポリスアクションは成立することが、本作で証明された。それはつまり、舞台の規模=物語の規模ではないということだ。本作が「パトレイバー」の影響を受けた「踊る大捜査線」の影響下にあることが、おわかりいただけると思う。問題なのは、後続の作品がこれに続かないことだ。
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ジャンル : 学問・文化・芸術

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