ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌~さくらももこ的世界とひな壇芸人~

 すでに長寿番組として知られている、さくらももこ原作のアニメ「ちびまる子ちゃん」。さくらももこ原作のアニメには「コジコジ」もあるが、やはり知名度としては「ちびまる子ちゃんの方が上だろう。筆者個人としてはあまりにもマヌケ方向に突出したきらいのある「コジコジ」も忘れがたい作品だ。同じく長寿作品である「サザエさん」や「ドラえもん」以降の作品でこれらに比肩する長寿作品を探すならば、本作や「クレヨンしんちゃん」、「それいけ!アンパンマン」「名探偵コナン」「ポケットモンスター」などがあげられる。これらすべて、もはや国民的アニメといって差し支えないレベルだ。これらの作品は同時に劇場用長編作品があり、夏休みや春休みなどに公開されるファミリーピクチャーとして親しまれている。「ちびまる子ちゃん」も同様に劇場版が存在するが、上記の作品に比肩しうる長寿番組であるにも関わらず、その本数は2本と少ない。1990年に公開された1作目は、まる子と同じクラスの大野君と杉山君をフューチャーした作品で、気楽に子供のお供についてきた大人を滂沱の涙の中に叩き落とした名作として知られている。1作目はレンタルでも置いてあるし、DVDとして購入もできる現状だ。一方1992年に公開された2作目に関しては2015年現在レンタルもなく、DVDとしても購入できない状態で、おいそれとは視聴できない状況にある。今回はその2作目を取り上げて、「ちびまる子ちゃん」という作品自体に迫ってみたい。

<作品概要>
 そもそもさくらももこ原作の漫画「ちびまる子ちゃん」は集英社の月刊少女誌「りぼん」に1986年から96年まで掲載された作品で、1989年には講談社漫画賞の少女部門を受賞している。96年以降は不定期連載となっているが、2007年から11年まで新聞掲載の4コマ漫画として連載されている。りぼん版は昭和50年代初期の作者さくらももこの出身地である静岡県清水市(現・静岡市清水区)を背景に物語が展開しているのに対し、新聞掲載の4コマ版は現代が舞台となっている違いがある。
 「ちびまる子ちゃん」の物語は、本質的にはさくらももこのエッセイ風漫画であり、さくら自身が劇中のまる子自身であるとしてスタートしており、前述の時代背景を受けてさくら自身が体験したり見聞きしたり感じたことが漫画のすべてである。にも関わらず、その起承転結の見事さとエッジの効いたユーモアが特徴の作品である。登場する同級生のキャラクターなどによって徐々に変化し、次第にフィクションの部分が大きくなると、さくら自身にストーリーテラーと芸人的なお笑いのセンスが開花するにいたり、やや時代背景があいまいになるものの、作品としてはほぼ完成形となる。

 そんな中、1990年にアニメがスタートする。筆者の記憶では原作にもストックがすでに無くなった時点でアニメは完結したものと思っていたのだが、90年から92年までを第1期とし、1995年より第2期として再開し、一時的な中断期間はあったものの現在まで継続しているのだという。物語は漫画版を踏襲し、基本的にまる子とその周囲のキャラクターたちが織り成す様々な物語であり、昭和50年代の日本のどこでも見られた原風景的なエピソードが、見るものにレトロな感慨と共感を抱きやすい特徴を持っている。前述のとおり劇場版の1作目は人気絶頂の1990年12月に公開。TV版スタートからほぼ1年後のことだ。今回取り上げる2作目はTVアニメ第1期終了後の1992年12月に公開された作品だ。その意味ではTV版の人気冷めやらずというタイミングでの2作目だったということになる。

 ある日、まる子は図工の授業で、「わたしの好きな歌」をテーマに絵を描くことになった。以前の音楽の時間に教えてもらった歌「めんこい仔馬」をテーマに絵を描くことを決めるまる子だったが、なかなか上手く描くことができない。そんなある日、母親のお使いで訪れた街で、一人の似顔絵かきの女性・木村しょう子と出会い、意気投合していく。まる子はしょう子の描く絵にあこがれ、しょう子はまる子を妹のように可愛がる。日に日に仲良くなる二人。まる子は自分が絵に描くつもりの「めんこい仔馬」の歌の真実をしょう子から聞かされる。幸せそうな飼い主の少年と仔馬の歌は、実は軍馬として連れ去られるという悲しい別れの物語が後に続いていたのである。その事実に悲しみを隠そうともせずに泣くまる子は、しょう子に諭されて、悲しみをこらえて仔馬と別れる少年の絵として描くことに決めたのである。まる子の絵に込めた思いが実り、その絵は賞をもらった。その喜びをしょう子に伝えようとしたまる子は、恋人からプロポーズを受けて悩むしょう子の姿を見る。絵描きとして成功したいしょう子に対して、北海道に戻って実家の牧場を継ぐ決心をした恋人から、一緒に北海道に来て欲しいというのだ。思い悩むしょう子の背中を押したのは、「どこでも絵は描けるが、お兄さんにはしょう子お姉さんしかいないのだ」と泣きながら説得したまる子の言葉だった。しょう子の結婚の日、しょう子を忘れられないまる子は、学校を早退して結婚式場に急ぐ。別れの言葉を言うために。後日北海道のしょう子から送られてきたのは、しょう子がまる子を思って描いた絵が掲載された雑誌だった。

<さくらももこ的世界の表現>
 まる子がその雑誌を最初に見たのはクラスメイトの男子がお小遣いで買った雑誌であったが、それを強引に頼み込んで、クラスの仕事を代わりにまる子がやる約束までして雑誌を手に入れたのだが、家に帰ってみるとしょう子から同じものが送られてきており、まる子が激しく後悔するというオチがついてエンドとなる。こういう落語的なサゲまであって、見事な起承転結を見せて物語は一巻の終わりとなる。脚本を書いたさくらももこ自身の、ストーリーテラーとしてのセンスがはっきりとわかる物語のオチである。

 どうして筆者が「ちびまる子ちゃん」のアニメを取り上げるにあたりこの作品を選んだのか? それはこの作品がさくらももこ的世界観が、漫画という媒体ではなくアニメという媒体にきちんと表現されていると思えるからだ。その第一に脚本がさくら自身で書かれていることがあげられるが、それだけではない。事実第2期におけるTV版脚本にも、さくらももこは大いに参加している。さくらももこの描く絵の特徴は、漫画としては書き込みも少なく淡白な印象で、いわゆる90年代に流行した「ヘタウマ」に類する絵ではある。ところが漫画の表紙などの一枚画では書き込みも細かく、どこか対称性のある幾何学的なデザインを好みながら、細かく意匠化されたモチーフを多く書き込み、ペイズリー柄なども好んで使うことによりなんとなくサイケデリックな印象がある。こういう意匠化された一枚画がアニメとして動くわけもなく、こういう一枚画の場合は彼女の独壇場となる。同じように問答無用に書き込みの多い漫画家に、筆者が大好きな「ディスコミュニケーション」や「謎の彼女X」などで知られた植芝理一氏がいるが、氏の絵の書き込みはハンパなく紙面にびっしりと書き込まれており、その個々の絵の配置がランダムで統一性はなく雑然と書かれている。その雑然さにこそ氏のセンスが光ると感じている。反面さくらももこの一枚画は幾何学的だったり対称性のある配置が見られ、どこか宗教画で言う曼荼羅に近い。この曼荼羅が宗教では世界を現すものであることはよく知られていることを考慮すれば、さくらの描く一枚画とはさくらの頭の中にある世界観そのものと言っていいのかもしれない。このさくらももこ的世界観の表現は、アニメではOPやEDの映像の中で部分的に表現されてはいるのだが、実はTV版の作画や絵コンテなどで画面構成をするアニメのスタッフのセンスと常にせめぎあっている状態にある。例えば第1期でもOPを飾った「ゆめいっぱい」や第2期の「ハミングがきこえる」の映像は、「ちびまる子ちゃん」におけるまる子の心象風景であり、彼女の少女としての部分が大きくクローズアップされることで映像ができている。これはあくまでアニメスタッフ側の斟酌の結果だ。ところが「うれしい予感」になると、さくらももこ的一枚画と似た対称性や幾何学模様が出だしたり、キャラクターを円形の配置し、天地のない画面構成が突如出てくることがある。EDでは西城秀樹の歌った「走れ正直者」の最後の辺りなどが顕著な例だろう。一つの構図の中で空から土の中のアリの巣の断面まで描かれた映像があり、この極端に短縮されたパースペクティブな絵は、さくら的な世界観をアニメスタッフ側が斟酌した結果の画面構成だともいえるし、ラストの円形状に配置されたウサギとキャラクターという構図などはまさにさくらももこ的といえる。このように同じ曲の映像の中でも、さくらももこ的世界観とスタッフによるさくら的世界表現は常にせめぎあっている状態にあり、TV版はこうした作者とスタッフの幸せなぶつかりあいによって作品が成立していることがわかる。

 その一方、本作においてはむしろさくらももこ的な世界観の表現が、突出しているといっていいレベルで登場する。本作の物語のきっかけが図工の宿題である「わたしの好きな歌」をモチーフに絵を描くことにあるのだが、それは「ちびまる子ちゃん」に登場するキャラクターの何人かが1曲を選んで、まるでミュージックビデオのように、己が妄想を映像として描き出すシーンとして象徴されており、この映像表現がまさにさくらももこ的世界観の表現に他ならないからである。特に花輪君が選んだ「ダンドゥット・レゲエ」やはまじの選んだ「買い物ブギ」などは、まさにさくらももこ的表現が炸裂している。もちろんこうしたパートの作画はアニメ側のスタッフが制作しているのだが、さくらの発案が故意に取り込まれて作画されていることを考慮すれば、「ちびまる子ちゃん」という作品のフィルターを外して作られているこれらのミュージックビデオ風の映像は、むしろさくらももこ的世界観をそのまま映像化したものに等しいのではないだろうか。その意味ではTV版以上にさくらももこ側にシフトして作られている作品といえるのが、映画「わたしの好きな歌」なのだ。

<まる子の立ち位置はひな壇芸人?>
 本作の主人公は明らかにまる子がであった女性である木村しょう子であることは疑いえない。まる子は確かに物語の中心にいて物語を回してはいるが、その実、物語の進行上、展開と変化を受け持っているのはしょう子であるから、それは間違いない。ではなぜこの物語は「ちびまる子ちゃん」足りえているのか? その答えは本作に顕著に表れている。
 TV版のアニメにおいても同様だが、「ちびまる子ちゃん」という物語自体、まる子自身が主人公となる物語は、割合としてやや少ない印象がある。第2期ではその傾向が特に顕著だ。劇場版では1作目の「大野君と杉山君」や本作のしょう子のように、まる子の身の回り以外で発生する物語を、まる子が横にいてチラ見しながら、まる子の視点で物語が進行することが多い。劇場版では明らかにまる子は主人公ではないのだ。だが物語の中心には間違いなくいる。つまるところ、「ちびまる子ちゃん」という作品におけるまる子は、狂言回しの役を買って出ており、一つの事件をまる子の視点や感情の起伏に沿って物語として仕立てることで、まる子は視聴者に対するインターフェイスとなっている。例えるならば、ひな壇芸人の最前列が番組を司る「アメトーーク!」に近い。つまりまる子は「アメトーーク!」における最前列のひな壇芸人なのだ。本作においてまる子が絵の題材とした「めんこい仔馬」と、しょう子の縁談話とは本来まったく接点がない。だが歌の続きに隠されていた飼い主の少年と仔馬の悲しい別れ、仔馬や少年が住んでいた牧場のイメージ、物事には悲しいだけではなく別の側面には喜びも存在することなど、いくつかのキーとなるイメージを引っ張り出して、歌としょう子の縁談話を密接に近づけることに成功している。だがその印象はあくまでひな壇芸人・まる子の見事な誘導によって成立しているのだ。その意味において、現在のTV版第2期のアニメがまる子以外のクラスメイトや周辺の人々の話にシフトしているひな形が、この作品に顕著に表れている。

 さて本作は前述のとおり、現在レンタルにもなく、DVDの販売もない。TV放映も筆者が記憶しているだけで1度しかなく、筆者はケーブルTVにて放送されているのを見ただけだ。こうなってしまった最大の理由はおそらく劇中で使用した音楽の版権の関係ではないかと想像しているが、これほどさくらももこ的な表現が登場した「ちびまる子ちゃん」作品もそうはないので、ぜひとも何らかの形でソフト化して多くの人に見ていただきたい作品だ。
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コメント

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なんか感動しました

ちびまる子ちゃんは僕も幼少から観てますが、映画にそんな内容があったとは。
最近のTV版は時代もあるのでしょうが、クレヨンしんちゃん同様コメディ要素が飛び抜けてますね


しかしながら、アニメ初期は作品コンセプトというか心に響いてくる内容が多い。
それはアニメスタッフだけではなく、かといって原作者が色濃く主張してるわけでもない、絶妙なバランスで構成されているからだと思います
大野君と杉山君は薄らと覚えてますが、「アクション仮面対ハイグレ魔王」に非常に近い雰囲気がありました
子どもの時に経験する友達との離別や、駄菓子屋で当たりカードを引き当てた嬉しさ、自分の思い出を掘り起こされるような描写が深く染みた気がしました


うんうん。今回の考察も楽しませていただきました。次もお待ちしております

ありがとうございます

キラシードさま

 コメントありがとうございます。
 「クレヨンしんちゃん」の劇場版なんかも扱ってみたいんですけど、あれはほら「オトナ帝国」と「戦国アッパレ」のおかげで、あらぬ方向で批評されちゃったので、うちではあつかいづらいんですよね。「大野君と杉山君」は、劇場公開後にTVで一度だけ見て、ずいぶんと泣かされた記憶があって、冷静に論評できそうにないので、たぶんブログでは取り上げませんけどね。いい作品なんですが、主人公であるところのまる子の立場が微妙なので、これはちびまる子ちゃんの話でいいのか?という疑問がよぎりますが、これも本文で指摘した通り、まる子=狂言回しで考えると、さもありなんと腑に落ちるわけですよ。
 お楽しみいただけたようで、なによりです。次回もお付き合いくだされば幸いです。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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