「夜ノヤッターマン」~デストピアをゆく少女~

 筆者が大好きな必殺シリーズには、毎回オープニングに渋いナレーションが付いており、短いながらも闇の仕置師たちを紹介するための映像となっている。その20作目「必殺渡し人」では以下のようなナレーションでスタートする。

昔から悪の栄えたためしはないと 世の例えには言うけれど
どうやらそうではないらしい
山のあなたの国々も 悪が栄えていると言う
わからない事ばかりだが わかっている事ただ一つ 許せぬ悪を消す事だ
この世とあの世の境の場所に 舟を浮かべて待っている 三途の川の渡し人

 今回取り上げた「夜ノヤッターマン」を初めて見た時に、すぐにこのナレーションを思い出して思わず笑ってしまったのだ。本作をご覧の方なら、このナレーションで筆者が笑った意味を即座に理解できることでしょう。だって、冒頭3行目まではまさに本作の話の根幹そのものだし、本作の主人公レパードの行動動機が残りの2行に集約されているからだ。つまり「夜ノヤッターマン」を手短に要約すれば、上記のナレーションを思い起こしてもらえばいいわけで。この類似性に笑わずにはいられなかった。もちろん本作の面白さはそれだけではないのだが、今回はそのあたりをとっくりと書いてみたい。

<作品概要>
 「夜ノヤッターマン」は2015年1月期に放送された深夜アニメ。制作はもちろん老舗中の老舗「タツノコプロ」。1977年にスタートし、ほぼ2年のロングランとなったタツノコギャグアニメの傑作「ヤッターマン」を大胆にリメイク。しかも2008年放送の「ヤッターマン」や実写映画版「ヤッターマン」をも包括し、すべての「ヤッターマン」シリーズの後日談として製作されている。ここ重要!
 物語は大悪党と呼ばれたドロンボー一味と伝説の正義のヒーロー・ヤッターマンによる大戦争が終了した後の世界が舞台。とある小さな村でひっそりと暮らす少女レパードは母親のドロシーと2人の従者と一緒に幸せに暮らしていた。レパードはヤッターマンの伝説を寝物語として成長し、正義の味方ヤッターマンにあこがれを抱く。そんな折、不治の病に倒れた母親を助けようと、村の対岸にあるヤッターキングダムに向かうレパードと2人の従者たち。大戦争に勝利したヤッターマンが築いたヤッターキングダムに行けば、正義の味方ヤッターマンが母の病を助けてくれると信じての行動だった。だが小舟でヤッターキングダムに近づいた3人を待ち受けていたのは、何者をも通さない巨大な壁と、ヤッターマンが打ち出した光線だった。命からがら逃れた3人。レパードは正義の味方のあまりの所業に一度は落胆するが、逆に腹を立て、あまつさえ自分たちの先祖であるドロンボー一味の戦いは、実はヤッターマンを打倒するための正義の戦いであったと決め込んでしまう。レパードは衣装を着こんで「ドロンジョ」を名乗り、従者2人も「ボヤッキー」と「トンズラー」を名乗らせて、ヤッターマンにお仕置きするべく新生「ドロンボー」は行動を開始する。
 ヤッターキングダムに渡った3人がそこで見た者は、レパードが幼いころから夢に見ていた天国のような場所ではなく、正義という名のもとに従属と労働を強いられたひどい国であり、ヤッターマンを模したロボットたちが人々を監視し続ける状態だった。そんな人々の現状を見たレパードたちは、労働に駆り出されて帰ってこない父親を待つ、目の見えない少女アルエットと、彼女を守るために生きる少年ガリナと出会い旅を共にする。そして出来レースのスポーツ大会の裏を暴いたり、キングダムを飛び出したい青年を助けたり、ヤッター十二神将の一人と戦いを繰り広げたりしながら、5人はついにヤッターマンの本拠地であるヤッター・メトロポリスへとたどり着く。そこはヤッター十二神将とヤッター兵が跋扈し、人々は課せられた労働の重さに喘ぐおそろしい世界だった。そしてついにヤッターマンにお仕置きするべく建物に侵入して5人が出会ったのは、なんと先の大戦争で倒されたはずのドクロベエだったのである。何度となくヤッターマンとの闘争の歴史を繰り返した宇宙人であるドクロベエは、地球侵攻の準備を整えて行った先の大戦争で、役立たずと判断したドロンボーたちを見捨て僻地に追いやり、自身の力でヤッターマンを打倒したのち、ヤッターマンの名前を借りてヤッターキングダムを創設。裏から実効支配することでこれまでのヤッターマンへの恨みつらみを返そうとしたのである。ヤッター十二神将の一人で実はアルエットの父親であったゴロー将軍の助力もありつつドクロベエの元から逃げ出した5人は、一つの作戦を決行する。それはヤッターマンではなくドクロベエに支配されている事実を知らない人々の目を覚まさせるために、ガリナとアルエットが新しい世代の「ヤッターマン」となって人々の希望となること、そして彼らに助力するためにドロンボー一味も戦うことを行動によって喧伝することだった。それはガリナにほのかな思いを寄せていたレパードには身を引き裂かれるほどの決断だった。そしてついに巨大化したドクロベエに戦いを挑むことになる5人。はたして彼らに勝機はあるのか?

<ヤッターキングダムというデストピア>
 本作の物語が正邪逆転の物語であることは、いまさら指摘するまでもない。最初は単なる逆転の立場だったヤッターキングダムと新生ドロンボーが、最後の最後でさらに逆転を見せ、ドロンボーの雇主であったドクロベエが、ヤッターマンを隠れ蓑にしていたという事実が暴かれて、新生ドロンボーの行動が俄然正義であり、しかも新生ヤッターマンの誕生を促すという流れが、誠に見事な物語運びで、1クールの物語としてとても充実した作品だったと思える。
 「ヤッターキングダム」といういわばデストピアともいえる世界が、どういうわけか「デッカイドー」と作中で呼称される北海道である事情は、この際どうでもいい。どうでもいいのだが、おそらくは北海道という土地柄から、すべての一次産業が盛んである上、それだけで自給自足が可能であることを考慮すれば、なんとなく納得してしまう。北海道のローカルタレントが泣いて喜ぶ設定ではあるが、それはさておき。少し不思議なのは、わざわざヤッターマン打倒のために十分な準備をして地球に到来したドクロベエが、どうして北海道だけで満足しちゃったのかは、語られていないのでわからない。そう考えるとこのデストピアはとても小さくて狭いのだ。ところがこのデストピアを、自身の正義を信じて疑わないレパードあらためドロンジョが闊歩することを想定すれば、この大きさにも得心がいく。彼女が1クールの物語でヤッターキングダムとなった地球上を渡ることは、あまりにも無謀にすぎる。そう考えれば北海道ぐらいがちょうどいいのかもしれない。そうこのデストピアは、レパードに合わせて作られた箱庭的デストピアなのだ。しかも自身を苦しめたヤッターマンへの意趣返しという、あまりにも小さなドクロベエの自尊心を満足するために作られた国という設定もまた、小さなドロンジョにとっては、欺瞞に満ちた大人の世界を、子供の論理でメチャクチャにするという感じで、ちょうどいいサイズ感でもあるのだ。

<悪が正義を生むパラドックス>
 正義がいるから悪がいるのか、悪がいるから正義がいるのか。卵先か鶏が先か的な問答のようにも思えるが、筆者の個人的な感慨からすると、法が生まれるから取り締まるという論理的な悪の発生と、悪がいるためにカウンターとして誕生する正義という2つの思考が、いつでもぐるぐる駆け巡っていて答えが出ないでいる。例えば青少年健全育成条例などは、法が生まれるからそこに悪が生じる典型例であり、条例がなければそもそも犯罪を構成することすらできないと思えるからこそ、納得しがたい思いがある。前々回までに記事にした「五星戦隊ダイレンジャー」は善と悪とが常にしのぎを削り、それは永遠に繰り返されるとしながら、その根源は一つであると結論付けており、ダイレンジャーですらゴーマに対抗するカウンターでしかないという存在意義の薄さを露呈する。このパラドックスにも似た状況は、筆者の中でも常にあって解決を見ない。実は「夜ノヤッターマン」という作品において、新生ドロンボーの誕生と新生ヤッターマンの誕生自体が物語によって描かれること自体、この正義と悪の出自のパラドックスが、見事に表現されている気がしてならない。

 新生ドロンボーの誕生は、あくまでレパードの意志であり、それは母親の死を契機にまだ見ぬヤッターマンへの逆恨みとしてスタートする。だがその胸中はあくまで母親を助けてくれなかったことへの意趣返しであるし、最初にキングダムから追い返されたレパードにしてみれば、逆恨みしても当然と思える。そこに悪意も善意もない。ただ自分の望みをかなえてもくれなかったヤッターマンへの翻意でしかない。だがデストピアであるヤッターキングダムに渡ってから、その目的が変化する。やはり間違っていたのはヤッターマンであり、このキングダムの存在こそが、ヤッターマンが悪である何よりの証しであることを、レパードは気づき始めることになる。天国のような世界だと信じて疑わなかったレパードにとって、キングダムの現実は、ヤッターマンを逆恨みした自身の想いを肯定する都合のよい世界でもあったはずだ。だがレパードの想いはそこで暮らす一組の少年少女を仲間にすることによって、彼らを助ける方向へとさらに展開していく。目的はあくまでヤッターマンへのお仕置きであり、彼らに一泡吹かせてやりさえすれば納得できたはずが、キングダムに暮らす人々に自身の貧しくつつましい生活に重ねることで、人助けへと転換していくことになる。彼女の中に芽生えた善意は、新生ヤッターマンとして形をなす。こうして悪意から生まれた善意は正義の誕生を促したのである。このパラドックスがたった一人の少女の小さな胸の中で駆け巡ったのである。もちろんこれこそが正義と悪の誕生のすべてだというつもりはない。だが正義も悪も根源は一つという「五星戦隊ダイレンジャー」のテーゼを信じるなら、レパードという一人の少女の中にある混沌が善意も悪意も生み出して、ドロンボーとヤッターマンを新生させるという物語として本作を眺めると、これも一つの答えの形なのではないだろうかと思える。

 それにしても新生ドロンボー役の声優陣のはじけっぷりは、実に耳心地がよくて楽しかった。特にレパード役の喜多村英梨の少女から少し背伸びした様子を見せる感じの演技は、本当に耳得でもあり、気持ちがいい。悪役然として登場するヤッターメカのばかばかしさもいいし、最終回で見事に復活したメカ・ダイドコロンも懐かしいだけではなく、現在の技術でよみがえるダイドコロンとして見ごたえもある。タツノコお得意のギャグのセンスもそつなく込められているし、深夜枠の1クールアニメとして忘れ去るには惜しい作品であったので、今回は取り上げてみました。タツノコ作品のリメイク作品は、これからも後を絶たないだろう。「ガッチャマンクラウズ」も第2シーズンが準備中であることだし、老舗タツノコプロはまだまだ健在である。ま、キャラクター版権商売ではあるけれど。コンテンツというよりもキャラクターの生命力と言い換えてもいいかもしれない。それもタツノコプロの地力である。
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コメント

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No title

自分はリメイク版ヤッターマンを観ているので
今作はその流れから楽しんでみております。
(ただし個人的にパラレル的続編と捉えています)

レパードらが果たすべく役割は何だったのか。
もちろん圧政に苦しむ人々を救う。それができるのは
ヒーローであり悪の看板ではない。
それはおっしゃるようにヒーローを成立させること。
悪役がいなければヒーローは存在できない。
新世代ヤッターマン誕生のモラトリアムであったりする。
それは黒幕ドクロべえも同じことで、ヤッターマン神格化が
皮肉にも自身を打倒しうる余地を与えてしまった。
自らの手で最強の敵に討たれる舞台を作ってしまったというのも
悪役の敗北パターンですね。(ヒーローを騙るのって死亡フラグじゃ)

特に印象深いのは清々しいほどオーラのある新ヤッターマンの雄姿。
いままでのギャグメカアニメとは違う本気バトルを魅せてくれたのは良かった。
敵幹部をものとせず、黒幕をついに撃破してみせたのは、ヤッターマンに
違う流れを与え、深みを与えたと言える。
そんなタツノコの底力を見た。

リメイクは難しい

TTさま

 コメントありがとうございます。コメントの内容、逐一おっしゃる通りだと思います。
 私も当時放送されていた「ヤッターマン」のリメイク版を、放送時間枠の移動後も楽しんでおりましたし、タツノコらしさの伝統が残しながらのいいリメイクを見ている感じでしたので、「タイムボカン24」も楽しんでいます。もちろん「~24」があのように旧作の逆転的発想の設定になったのも、「夜ノヤッターマン」の成功が一因としてあるものだと思っています。いま書き始めている記事もそうですが、「語り直し」という創作手法が、古い革袋に新しい酒を入れるだけにとどまらないし、旧作ファンにだけ媚を売る作りではなく、きちんとご新規さんを引き込むための設定が、これでもかと練られていることが本当に大事なんだと思います。キャラクターや構造の相対化と逆転はその一手法でしかなく、さらにどうみせていくか?をどうやって積み重ねていくか。コンテンツの寿命は、こういうしぶといやり方の中にある気がします。安易な実写化では決してないと思えますw
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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