宇宙海賊キャプテンハーロック~その1・シブいとはこういうことさ~

 ずいぶんと長い時間をかけたが、満を持して今回より取り上げます。時間がかかったのは相変わらず筆者が別のことで時間を取られていたせいだし、執筆自体もその間まったく進んでいなかったので、全面的に自身の責任です。お待ちいただいていた方々、本当に申し訳ありませんでした。ただ本作について筆者が反論をするならば、まず第1に2話の時点までまったく物語が始まらないこと、そして第2にこの最初の2話に本作のテーゼがすべて凝縮されているため、見ごたえも満足感もあって、本作の肝であるはずのハーロックら海賊たちと地球に侵攻しつつあるマゾーンとの戦いがどうでもよくなってしまうため、2話以降がなかなか進みづらいことが上げられる。まずここのハードルを超えていかないと、先に進まないのだ。そしてここからがまた問題なのだが、謎の敵・マゾーンの正体があまりに小出しで出てくるため、物語の進行速度がものすごく遅く感じられてしまう点も加えておきたい。言ってしまえば、この作品は成熟した大人に向けてのSFファンタジーなので、ゆっくりした物語運びもそのためにある。70年代の生き馬の目を抜くようなアニメシーンの中で、よくぞこの作品はこれほどの成熟さを維持して放送し続けられたものだと、いまさらのように感心する。

<作品概要>
 漫画「宇宙海賊キャプテンハーロック」は1977年から79年にかけてプレイコミック誌上にて連載された松本零士氏の作品である。松本氏は本作品の企画をそもそもTVアニメーション用のものとして企画していたが実現せず、漫画が先行する形で公開された。物語はアニメ同様地球侵略をたくらむマゾーンとの戦いを描いた作品ではあるが、未完のまま連載は終了している。アニメのほうは1978年から翌年にかけて放送された。漫画とは異なり未完のままではなくマゾーンとの戦いに決着をつける形となり、全42話となっている。

 2977年.地球は退廃と無気力だけが人々を支配していた。そんな中、海賊船アルカディア号に乗る宇宙海賊キャプテンハーロックとその仲間たちは、宇宙の荒波に乗り出していく。ハーロックの親友の娘・まゆは孤児院で育てられていたが、彼女の元に誕生日のプレゼントを持ったハーロックが訪ねてくる。それは地球政府の切田長官率いる地球軍が待ち受けていた。だがそんなことには目もくれず、ハーロックはまゆにプレゼントを手渡すためだけに地球へと向かうのだ。そんなハーロックとアルカディア号に、地球軍はなすすべもない。そのころ地球では高名な天文学者が謎の死を遂げており、地球政府は海賊行為を行い地球政府に反旗を翻すハーロックによる暗殺と断定していた。だが事態は最悪の形で、誰の目にも触れぬうちに静かに進行していたのだ。(1話)
 そしてある日突然、地球に接近する謎の物体が地球に衝突するコースをとって飛来する。それを観測によって予測していた科学者たちは、すでにほとんど殺されており、残るは台羽博士とその一子・正、そしてクスコ教授だけだった。台羽博士の進言に耳も貸さない地球政府の高官たち。だが謎の物体はアルカディア号の攻撃を受けても破壊されもせず、軌道も変えずに地球に侵入し、地球政府の目の前に墜落する。墜落現場の周辺は火災が発生し、甚大な被害が出た。墜落した物体は黒一色の球体で、表面には古代の文字によく似た文字が書かれていた。そのころまゆは、切田長官の差し金によってハーロックをおびき出すための手紙を書くことを強要されていたのだが、それを拒否したため、激しいいじめを受けていた。ハーロックからもらったオカリナを屋根の上に放り出されたまゆは、危険を顧みず屋根へと上がる。まゆは足を滑らせて落ちようとした時、謎の球体の落下によって発生した爆風が、皮肉にもまゆの体を受け止めた。まゆは一命をとりとめたのである。そしてハーロックは親友の娘がいる地球を守ることを、あらためて決意する(2話)。
 球体の解析が進む中、クスコ教授は球体表面に描かれた文字を解読し、球体を異星人のペナントと指摘する。台羽博士は正の目の前で殺される。正が殺されそうになるのを助けたのはハーロックだった。台羽博士の最後の解析によって、球体は宇宙の何もない方角から飛来したことがわかった。そしてハーロックに倒された暗殺者は、紙のように燃える女性のような異星人だった。ハーロックに助けられた正は、そのままアルカディア号へと招かれ、マゾーンとの激戦を目の当たりにする。(3話)
 台羽正は迷っていた。アルカディア号の日常のあり方を見ても、海賊とは名ばかりの規律がないにも等しい無法状態。しかもハーロックは何のためにマゾーンと戦うのかを、正に語ろうとはしない。自身が海賊に身をやつす覚悟もできぬまま、正はアルカディア号を離れる。だが台羽博士の死の真相やマゾーンの正体を地球政府に訴える方法に出た正を、切田長官はハーロックに加担した罪で逮捕するという対応ぶり。怠惰に慣れきってしまった地球人類をあきらめ、ついに正はアルカディア号に乗り、海賊となって地球を守るために戦うことを決意する。(4話)

<このストイックさ!>
 ここにきて、物語はやっと動き出した。ここまでですでに4話。どうよ、この余裕のあるストーリー運び。イマドキの深夜アニメでは絶対にできないのんびりとした出だしだ。こののんびりとしたストーリー運びの中で、やっていることはたった3つしかない。1つは2977年現在の地球の堕落した現状を伝えること、2つ目はハーロックが地球に固執する理由として、今は亡き友人の一粒種である「まゆ」という少女のけなげさを演出すること、そして3つ目はあらん限りの手法で主人公・ハーロックのシブさを見せつけることである。もちろん敵性宇宙人であるマゾーンについても描かれているが、その情報の大半は「紙のように燃える」「女性のような容姿」「かつて地球に到来し、地球文明に干渉している可能性あり」といった断片的な情報で、これらの情報が有機的につながってくるのは、4話以降のことになる。5話以降の物語では、地球上にある不思議の事情を、マゾーンの遺跡のような形で理解していく話の流れは、石ノ森章太郎原作の「サイボーグ009」や手塚治虫原作の「三つ目が通る」などとよく似た構造をしている。このあたりのマゾーンの扱いについては次回以降に改めて取り上げることにする。

 さてここでは改めてド頭の4話で描かれている内容に触れていこう。まず最初に描かれているのが2977年の退廃的な地球の姿である。こうした退廃的で堕落した人類の姿には、劇中でそうなっている事情が垣間見える。食料や物資は十分に賄われており、配給制度によって人類は働くことから解放されている。これ幸いと思った自宅警備員の方々には申し訳ないが、ここには何かを生み出すという意味での労働をも奪われており、娯楽も政府から与えられたものを楽しむ以上のことができない状態なのだ。現在のネット環境やインフラが整備された社会と違って、政府批判すら許されない。それはTV放送から送られてくる催眠電波やサブリミナル・コマーシャルなどによって、政府自身によって国民が骨抜きにされている。そしてその実態は、国民による反乱を恐れた統治者による事情だけなのだ。こうした退廃した世界観は、原作者である松本零士氏の当時の日本観でもあり、こういう状況はさらに後続作品となる「銀河鉄道999」にも何度も登場する。ただしこういう状況を嘆いているわけではなく、この状況を打破し、この社会に反旗を翻す英雄譚として描かれている物語であるわけで、宇宙海賊キャプテンハーロックが登場する土壌としての世界設定なのである。

 第2に描かれているのは、ハーロックの親友の娘・まゆとの親交である。これはハーロックがどうして地球に固執しているかの最大の理由がこの娘にあることを視聴者に意識させることを主眼としている演出であり、この原作にいない「まゆ」という少女の登場は、脚本執筆時点で松本御大と監督、脚本家(りんたろう、上原正三)の間で激論が交わされたという逸話が残っている。おそらく松本御大の思考では、「まゆ」はハーロックにとっての「弱点」となることで、完全無欠であるハーロックというキャラクターにほころびが生じる可能性を危惧しての反対だったろうし、今もってハーロック・ファンの中には「まゆ」を軽視している人もいるという話を聞いたことがある。だが前途ある若者である台羽正の後見人のような立場をとったり、「999」に登場する鉄郎との友誼などを想像すると、年少者に対しての優しさや無条件ではない厳しさが同居するまなざしは、やはりハーロックの中にある「父性」に由来すると考えた場合、「まゆ」の存在がそれを保証するものである可能性に思い至れば、決しておかしな話でないだろう。その意味では「わが青春のアルカディア」の血気盛んなころのハーロックとは異なり、ある程度老成しているハーロックであると言い換えることもできる。いずれにしても「まゆ」の存在は、この物語において重要なキャラクターではあるものの、そんなにいじめられるならアルカディア号に乗せてやれっていう視聴者の想いとは裏腹に、親友との約束によってまゆを地球の大地の上で育て、なおかつそのために危険を承知の上で地球に度々飛来するハーロックなのであった。

 そして極めつけはハーロックのシブさを見せつける点であるが、つまるところ退廃した地球という設定上の土壌も、地球を守る理由付けとなっているまゆの存在も、ハーロックという一人の稀有なキャラクターを描くために存在しているといっていい。ただまゆに誕生日のプレゼントを渡すためだけに、アルカディアクルーの反対を押しのけて地球にやってくるハーロックの、純粋なまでのストイックさに酔いしれろ! しかもまゆが切田長官はじめ施設の校長などからひどいイジメにあっていることを知りながら、まゆはそれを主張しようともしない。ハーロックもそれを耐えてでも地球で暮らすことを望み、それを理解するから何も言えずにいるまゆ。こういった思いやりで満たされる心の交流となる手紙のやり取りなどは、涙なくしては見られない。「おしん」もかくやの感動シーンだ。もちろん、親友の一粒種であるまゆを、マゾーンとの戦いに巻き込みたくないというハーロックの思いもあるだろう。だがハーロックにとってのマゾーンとの戦いは、まゆを守ってのたやすい戦いができる状況ではなく、自らの命を懸けて挑まなければならない一大決心のもとに行われている戦いであることを示しているから、ハーロックはまゆをこの時点でアルカディア号に乗せることができないのである。そしてそれを言葉にせずともわかってくれる、まゆの人間の懐の深さもまた、ここに織り込まれているといえる。

 さて次回よりいよいよ5話以降の物語の流れに触れていこうと思う。ゆっくりとお持ちいただければ幸いです。
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コメント

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No title

お待ちしておりました。
次回以降の掘り下げを期待しております!

ありがとうございます

私は申さま

 コメントありがとうございます。
これを励みにがんばりますので、気長にお待ちいただけたら幸いです。

No title

そうそう、最初の2話くらい長いプロローグだったなぁ、主人公はこの女の子かな?って思うくらい丁寧に描いていて……などと思い出しながら楽しく読ませていただきました。

平成生まれながら、なぜか年末から急に松本零士ものにハマってしまい、78年版アニメハーロックを少しずつ見ていたところ、こちらの記事を目にして嬉しくなってしまいました。2015年にもなって40年近く前のアニメの考察をしているひとがいるなんて! しかも素晴らしい密度で!! 続きとても楽しみにしています。

ありがとうございます

びくるさま

 コメントいただき、ありがとうございます。しかもお褒めいただいたようで、恐縮至極です。

 状況もやっとととのいつつあり、近々には続きをお届けできるかと思います。お待ちいただければ幸いです。
 あ、ちなみに、当ブログでは、古い作品しか出てきませんw 平成だろうが昭和だろうが、自分で見て面白いと思った作品しか取り上げられない、不器用ブログですので。

遅ればせながら

お忙しい中であったとお察ししますが、丁寧なお返事ありがとうございます。
続きが読めて嬉しいです。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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