大人を逃げないということ~十兵衛ちゃん~

 私には子供がいない。様々な事情があって、結婚しても子供をもうけずに暮らしている。幸い近親者は理解が深く、嫌みのひとつも聞かずにすんでいる。だがやはり「子供がいたら」と思うこともある。それは自分がいい年をした「大人」として情けないと思ったときだ。そんなときに必ず思い出す作品がある。それが今回のお題、「十兵衛ちゃん」だ。

 「十兵衛ちゃんーラブリー眼帯の秘密ー」は、1999年4月から 6月にかけて、テレビ東京系の深夜枠で放送された作品だ。作品のタイトルから、多少ちゃらけた印象を受けるかも知れない。総監督は大地丙太郎氏。「おじゃる丸」や「こどものおもちゃ」などで名をはせた監督だ。作品はコメディと決まったようなもんである。演出等を桜井弘明氏、キャラクターデザインを吉松孝博氏が担当している。桜井氏は最近では「GA」の監督もなさっているし、吉松氏も原画やキャラクターデザインで、現在でも第一線で活躍しているアニメーターだ。制作はマッドハウス。

 物語はいまから300年前にさかのぼる。いまわの際を迎えた柳生十兵衛、その弟子の鯉之助にラブリー眼帯を託す。このラブリー眼帯に選ばれしものは、十兵衛の剣の力を発揮する2代目十兵衛となることが出来る。そして十兵衛が残した2代目の条件とは、「ぽちゃぽちゃのぷりんぷりんのぼんぼーん」だという。
 鯉之助は2代目となる人物を捜すべく、300年にわたる長い旅を続けた結果、「菜の花自由」という中学2年生の少女に行き当たる。自由はいやいやながらも眼帯を手にし、2代目十兵衛となって、眼帯の秘密をもとめる「竜乗寺家」から送られてくる刺客と、戦う羽目になる。そしてラブリー眼帯の秘密とは、十兵衛の剣にやどる、悪意を払う退魔の力だったのだ。

 吉松氏独特の柔らかい線による、キャラクターの多彩な表情、毎回の見所となる剣劇アクションのスピード感、日常のなにげない演出、はっきりいって切れ気味のギャグ演出など、現在の目で見ても全く面白さは衰えを知らない。特に作画を崩したり、落書きのようなキャラクターを出してきて喋らせたりする、内輪の冗談のようなギャグも、「ギャグマンガ日和」などで見られる大地監督の手腕により、本気で演出されている。

 また自由とその父親の菜の花彩の二人については、とても手を尽くして描かれており、印象深い。当初彩は、娘の入学にいかつい格好でついてきて、ひたすら娘を心配する親ばかのキャラクターとして登場する。これだけだと心配性の父親の設定で終わってしまうのかと思いきや、中盤で二人にしかわからない大事な事情が明らかになる。この二人の親子には母親が存在しない。自由が小学生の時に、風邪をこじらせて亡くなっている。このとき彩は、とある時代小説家のゴーストライターをしており、売れっ子であったその小説家のために小説を書いていたため、彼女の死に目に会えなかったのだ。そんな父を自由は決して許そうとしなかった。彩がゴーストライターをやめて独立しても、自由の心は縛られたままだ。その自由の心を解きほぐしたのは、彩の必至の説得と、自由がわからないと悩んでいた引き算について、父親として説明したときだった。

自由「十の位から1借りてきたのに、どうして返さないのか、わからない」
彩 「返さなくていいんだ・・・・、返さなくていいんだよ」

 その瞬間に、彩の中で自由が彩のすべてになった。だからラブリー眼帯を無理に外そうとした自由が、高温で寝込んでも、自分の体を呈して助けようとする。亡き妻の面影をもつ女性の誘惑に心揺らされながらも踏みとどまろうとする。自由も、小説家で日々だらしなく過ごす父を心配したり、思いやって過ごしている。そんな自由にとっては、他人を思いやることも普通だし、300年間2代目十兵衛を捜すつらい旅をしてきた鯉之助をも思いやるやさしさも、あたりまえのことなのだ。残念ながらラブリー眼帯は、そうした自由の日常を破壊するものだったので、日常を取り戻そうとするために、彼女は時に眼帯をつけることを拒否したりする。

 最終的にラブリー眼帯の力で、敵を救うことを目的とし、自由は戦うことを決意する。そして竜乗寺家に巣くう悪霊を退治して、ラブリー眼帯から一時的に解放される(パート2があるからね)。それはラブリー眼帯に秘められた力でもあるが、同時に父親との絆で得られた、すべてを許すことが出来るやさしさゆえに、悪霊をも解放する力を得ることが出来たのだと思う。それは彩が「大人としてなすべきことから逃げなかった」し、そのことを自由が認めたからだろう。「大人」であることは決して難しくない。でも今の大人達がその責任を果たしていると、胸を張って言える者は少ないのではないだろうか。だからこそ自分を振り返ったときに、自由と彩の親子の絆にどこまでも酔えるし、どこまでも感動できる。大人であることを逃げなかった彩に、それを闇雲に否定しなかった素直な自由に、素直に感情移入できるのだ。

 これを見るたびに、私も逃げずに大人として振る舞える人間になっているかどうか悩んでしまう。まさに自問自答の毎日だ。自分が子供を持っていなくても、社会的に大人として果たすべき責任はある。ささやかな選挙権を行使することだって、そういったことの1つだろう。選挙も近い。いつ何時大人の判断を迫られてもいいように、心の準備を怠らないようにしなければと、今日も心にとめておこう。
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ジャンル : 学問・文化・芸術

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