007シリーズ雑感~その1・セカイと戦い続ける男~

 全世界で最も名前の知られたスパイを上げろといわれたら、まず筆頭でその名前が挙がるであろう「ジェームズ・ボンド」。時代劇で言えば「隠密」となるであろう人が、こんなに世界中に名前を知られていいのだろうかと思うほどだが、何しろその世界でなくても映画ファンなら誰でも知っているし、映画ファンでなくても知っている名前。筆者が生まれるはるか前、第二次大戦の余韻が残る世界で、秘密裏に暗躍し、イギリスはおろか世界を救ってきたヒーローである。初代のショーン・コネリーから現在のダニエル・グレッグに至る6人もの名優が演じてきたこの世界一有名なスパイの物語について、今回は思いのたけをぶつけてみようと思う。

 今回この記事を書くために、20世紀FOXエンターテイメントから発売されている、ボンドを演じた俳優ごとにまとめられた4つのDVDやブルーレイBOXを購入。これを視聴しての執筆だ。映像としてはかつてのアルティメットコレクション時代にリマスターされたもの、ピアース・プロズナンとダニエル・グレッグに関しては現行発売されているブルーレイをそのままBOX化している。なおこのBOX化に際して、2代目ボンドのジョージ・レーゼンビーの「女王陛下の007」と4代目ティモシー・ダルトンが演じた2作品に関しては作品が少ないためか、BOX化が見送られている。いっそ抱き合わせで売ってくれてもよさそうなのにと、一応文句だけは言っておいて、これらの作品についてもレンタルにて視聴した。

<007とその時代>
 まずその歴史から振り返っておきたい。原作の小説を執筆したのはイアン・フレミング。実際に諜報活動に従事しており、その経験から小説を書いたとされている。これがプロデューサーであるアルバート・R・ブロッコリによって見いだされ、映画化の運びとなる。それではこれまで劇場公開された007シリーズの作品タイトルを年代順に並べてみたい。

1962年 ドクター・ノオ
1963年 ロシアより愛をこめて
1964年 ゴールドフィンガー
1965年 サンダーボール作戦
1967年 007は二度死ぬ
1969年 女王陛下の007
1971年 ダイヤモンドは永遠に
1973年 死ぬのは奴らだ
1974年 黄金銃を持つ男
1977年 私を愛したスパイ
1979年 ムーンレイカー
1981年 ユア・アイズ・オンリー
1983年 オクトパシー
1985年 美しき獲物たち
1987年 リビング・デイライツ
1989年 消されたライセンス
1995年 ゴールデンアイ
1997年 トゥモロー・ネバー・ダイ
1999年 ワールド・イズ・ノット・イナフ
2002年 ダイ・アナザー・デイ
2006年 カジノロワイヤル
2008年 慰めの報酬
2012年 スカイフォール
2015年 スペクター

 上記以外にも1967年にパロディ版「カジノロワイヤル」や、1982年に上記の本家とは別に作られ、ショーン・コネリーが007を演じた「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」がある。この作品は「サンダーボール作戦」のリメイクであり、タイトルはコネリーの妻が彼に行った「もう二度と(ボンド役を)やらないなんて言わないで」という言葉をそのまま使ったものだ。それはショーン・コネリーの007を愛したファンすべての声でもあった。

 さてこの007シリーズの世界は現実世界と概ね時を同じくしている作品群であり、当然のように世界の政治状況が大きく影響している。第二次世界大戦後、世界は資本主義を掲げる欧米西側諸国と社会主義の東側東欧諸国が争っている、いわゆる「冷戦」の時代だった。最初期の007シリーズは、裏の世界で暗躍する「スペクター」と呼ばれる組織が、冷戦状態の2大勢力に亀裂を入れることで戦争状態を生み出そうとする動きを牽制し、その計画を未然に防ぐイギリス諜報部MI6のエージェント007ことジェームズ・ボンドの活躍を描いている。敵はあくまでも「スペクター」という組織であり、その極悪非道な計画を挫くために007は戦っている。ショーン・コネリーのボンドが戦っていたのはこうした背景下の世界であり、そうしたスペクターとの戦いは「女王陛下の007」で一応の決着がつく。その後、ボンドの敵はスペクターの縮小再生産的な企業家や、ソ連の軍国主義者の独断による破壊活動などがターゲットとなる。筆者が子供のころからなじんでいるロジャー・ムーアのシリーズは、まさにこのあたりだ。

 1985年、ソ連共産党書記長に就任したゴルバチョフの登場によって、ペレストロイカが掲げられると、国内体制の抜本的な見直しと大規模な軍縮が進み、西側との関係改善がおこなわれることになる。これに歩みを合わせるかのように東欧諸国でも政治状況が変革し、その結果として東ドイツ国民が西ドイツへと大量脱出したことによってベルリンの壁は崩壊。これを象徴的な出来事として東西冷戦は終結となる。これ以降は中東諸国や東欧諸国といった地域紛争が問題となる。東欧諸国の民主化の影で、さらなる地域問題が紛糾し、中国や北朝鮮などの問題も顕在化してきた。90年代以降のまさにこうした世界情勢下でのボンドの活躍となる。ティモシーやピアーズのボンドはまさにこの時代といえる。そして新時代に登場したダニエルボンドは、007=ジェームズ・ボンドの誕生からやり直すという、近年のリブートブームに乗っかった作品ではある。それまでシリーズが持ち味にしていたユーモアやウィット、セックスアピールなどのほとんど捨て去り、硬派なスパイアクションを目指した作りとなっている。それはそれで好評をもって観客に迎えられた。詳細は後にゆずる。

 もっとも、スパイアクション映画なら他にも多種多様にある。「ボーン・アイデンティティー」シリーズや「パトリオット・ゲーム」、有名なTVシリーズの映画版「ミッション・インポッシブル」シリーズや「チャーリーズエンジェル」、パロディなら「オースティン・パワーズ」やレスリー・ニールセンの「裸の銃を持つ男」など、枚挙にいとまがない。もちろん、需要があるからこうしたスパイ映画は作られ続けるわけで、そのひな形としての007シリーズは、たとえ時代遅れの旧作であっても、今なお輝き続ける。

<コネリー、スリル、サスペンス、そして悪役>
 第1作「ドクター・ノオ」でスタートした007シリーズ。基本的にはイギリス諜報部MI6の諜報部員ジェームズ・ボンドが、豊富な知識と鍛え抜かれた肉体、そして支給される秘密兵器を駆使して、時に蠱惑的な女性を口説き、時に巨悪の計画をくじく、というのがコンセプトだ。大体にして物語はボンドの同僚が任務遂行中に何者かに暗殺され、未知なる敵の胎動が予告されてスタートする。上司であるMに呼び出されるボンドは、秘書のマネーペニーと軽妙洒脱な会話を楽しんだのち、Mから同僚の死と遂行途中の任務内容について語られる。そしてその任務を引き継いだり、新たな任務を受けたりしてボンドは飛び出していく。様々な障害をクリアして、ボンドは巨悪の計画の全貌を暴き出し、その計画を未然に防ぐ。その際、敵にかこわれている女性や、何故か敵に関連した女性と恋に落ちたりして味方を得ながら、ボンドは任務を遂行していくのだ。

 「ドクター・ノオ」ではそれ以降のボンドではとんとお目にかかれなくなったシーンがある。それは任務地のホテルに着いて部屋にチェックインした後、自室への誰かの侵入の痕跡をたどるために、仕掛けをするシーンだ。自室に入るとすぐに鞄をチェックし、盗聴器の所在を確認したり、部屋の小仕掛けを確認する。もちろんベッドルームやシャワールームに至るまで。そしてやおら自身の髪の毛を1本抜くと、それを自室のクローゼットの扉に唾液で髪の毛を張り付けておくのだ。あからさまに派手にタキシードを決め込み、アクションも巻き起こす騒動も派手に見えるため、つい忘れがちだが、ボンドはこのように用心深く、思慮深いのだ。もちろん007といえば、ボンドカーや小型攻撃ヘリ・リトルネリーをはじめとするQの開発した秘密兵器を駆使することで有名だろうけど、こうしたどこかオモチャじみた秘密兵器がなくとも、鍛え上げられたボンドの肉体や詰め込まれた博識を持って、ボンドは活躍できるに違いない。それをほんの少しだけフィクションを加味して楽しませてくれる。それもシリーズの醍醐味だ。

 コネリー時代のシリーズはどこか野心的ですらある。ボンドと組織スペクターの対立は、シリーズを牽引するに十分であり、スペクターが何事かを企み、それを阻止するボンドというひな形は、1作目で出来上がっている。それにも関わらず、本作のスタッフはその設定にまったく拘泥することがない。2作目「ロシアより愛をこめて」は、ボンドを宿敵として認識したスペクターが、旧ソ連のKGBの仕立てあげた罠を装ってボンドを暗殺しようとする話だ。今回のボンドガールとなるタチアナ役のダニエラ・ビアンキの魅惑的な美しさが印象的で、筆者は個人的にNo.1ボンドガールに推すのだが、それはさておき。3作目「ゴールドフィンガー」では金の密輸に関わる資産家ゴールドフィンガーによる、合衆国の金塊貯蔵庫襲撃計画を阻止する話になる。もちろん小さな金塊強奪などではなく、金塊を放射能汚染することにより世界経済を破綻させ、自前の金塊の値を釣り上げて大儲けという企みであったため、ボンドは爆発直前の核爆弾の解体までやってのけることになる。

やはりこの時代において「核兵器」というのは厄介なもので、取り扱いは細心の注意を払う必要があるくせに、どこの国もザルの目としか思えないような甘いセキュリティによって、何者かに盗まれるお約束。しかも爆発させれば拡散する被害は甚大だし、爆発によっておこる放射能汚染がまた問題の種になる。シリーズ最高収益となった4作目「サンダーボール作戦」も、NATO空軍の2発の核ミサイルが奪取されるところから物語はスタートする。スペクターNo.2であるラルゴは、英米主要都市への核攻撃を盾に巨額の金銭を要求する。まず行方不明の核弾頭の所在を明らかにし、ラルゴの野望を挫くため、ボンドは活動を開始する。

そもそもイギリスという国はアフリカやオーストラリアなどの植民地政策を強いてきた。このシリーズで登場する舞台が中米だったり香港だったりと、スタイリッシュな都市部ではなく、エキゾチックな場所が舞台に選ばれている理由の一つには、スパイ映画の背景となっている第二次大戦終了下における世界ではなく、植民地支配を当たり前としていたさらに前の時代のイギリスに想いを馳せると、ただただお姉ちゃんたちが半裸で出てくる事情だけでこういう舞台が選ばれているわけじゃないって思えて、なんとなく微笑ましい。

そうした作品のエキゾチックさも続く5作目「007は二度死ぬ」で極め付きになってくる。今度の舞台は日本なのだ。この作品に関しては言いたいことが山ほどあるが、何せ筆者が記憶している限り、この作品の地上波放送回数は、他の作品と比べて群を抜いて少ない気がする。しかも放送時には大胆なほどにカットが施され、あろうことか日本代表のボンドガールである浜美枝の出演シーンまで切り落とすものだから、見ていて話がつながらない。結局筆者は今回DVDで見るまで、どういう話のつながりでボンドが日本人に変装し、適地となる漁村へと婿入りしたのか、そういった事情が理解できていなかったぐらい。

さてこの作品におけるトピックとしては、話の規模が大きくなってくると、結局宇宙へと視野を広げなければならないという、シリーズとしての命題であり壁に当たっていたということだろう。今回のスペクターは宇宙開発競争を繰り広げる米ソを尻目に、打ち上げられた宇宙船を拿捕するための宇宙船を使って、米ソ開戦を目論む。一見するとわかりのいい話に見えるのだが、スペクターは拿捕した宇宙船の乗組員を生かしたままにしておいて、何がしたかったのか?とか、気になる点はいくらでもある。また日本に関するトンデモな設定の数々は、他のサイトでも取り上げられているので、ここではあえて触れまい。そうそう、忘れてはいけないのが、この作品でスペクターのNo.1であるブロフェルドが登場していることだ。グレーの詰襟スーツに、頭髪のない禿げ頭、傍らに毛がふさふさした猫といういでたちは、次作「女王陛下の007」に登場するテリー・サバラス演じるブロフェルドでトドメを差す。もちろんバカ映画「オースティン・パワーズ」に登場する悪役Dr.イーブルの元ネタだ。

<2代目の登場とコネリーの復帰>
 さて、大好評をもって受け入れられたコネリー・ボンドであったが、長きにわたるボンド役は俳優ショーン・コネリーにとってすべてがプラスになるわけではなかったようで、5作目「007は二度死ぬ」をもって一度降板する。6作目となる「女王陛下の007」は、シリーズで唯一、1作品のみボンド役を演じたジョージ・レーゼンビーが登板する。オーストラリア出身の彼の甘いマスクに製作スタッフも大変乗り気だったそうだ。だがたった1作での降板。その理由は撮影中のジョージに関するゴシップとか何とか、いろいろとあったそうだが、結果として興行成績は振るわなかったとか。その責任を取らされたわけではないだろうが、7作目「ダイヤモンドは永遠に」にてコネリー・ボンド復活となる。

 話を進める前にまずたった1作のみの出演となったジョージ・レーゼンビーの「女王陛下の007」について触れておきたい。そもそも007ことジェームズ・ボンドという人は独身貴族であり、どこか結婚という物に興味がないように思える人だ。フリーセックスを標榜しているわけでもないが、任務中でも任務外でも女性を口説いているように見える。それが実らないのはMの秘書であるミス・マネーペニーだけなのだが、何もセックスなしでも事件の中で女性を味方につける点では、その魅力は女性相手にはあまりに全方位的であるから、相手を選ばないようすら見える。そんなジェームズ・ボンドが自らの告白でめとった妻は、自暴自棄気味に生きているテレサという女性だった。「女王陛下の007」という作品を他作品と唯一差別化する点を挙げれば、この「ボンドの結婚」というエピソードが上げられるだろう。雪山ロープウェイ小屋からの脱出、スキーを使っての逃亡、カーレースに紛れ込んでの逃亡劇など、アクションも中身も濃いし、ラストのボブスレーを使ったブロフェルドの追撃戦なども手に汗握る展開で、実に映画としての見せ場も多い作品なのだが、公開当時以上にボンドファンからもあまり顧みられないのは、この「ボンドの結婚」というエピソード故な気がする。このラストシークエンスのボンドの結婚は、ハネムーンに旅立った直後の狙撃によって、ボンドはテレサと死に別れるオチがついており、もの悲しいラストはやはりファンを遠ざけたのかもしれない。

 そしてコネリー復活となった「ダイヤモンドは永遠に」は、前作「女王陛下の007」における仇敵・ブロフェルドとの決着編となっている。物語冒頭でボンドが倒したはずのブロフェルドは影武者であり、その実、休暇がてらの内偵中のボンドが、ダイヤモンドの密輸ルートを暴いた結果、奪われたダイヤモンドは人工衛星のレーザー発振器に利用され、それを操って再び世界を脅迫しようとしていた男こそ、ブロフェルドだったというオチ。新妻を殺されたボンドと、組織を壊滅させられたブロフェルドの息詰まる対決が見どころだ。

 その一方で、これまで6作もボンド役を演じてきたショーン・コネリーの余裕ある演技は、これまでよりも一層コミカルな演技を披露しており、軽妙洒脱な会話部分の充実ぶりも目を見張る。こうした楽しさの部分、ボンドの大人の余裕とでもいうべきおしゃれでカッコよく、それでいてユーモアあふれる会話は、ここでほぼ完成されているといっていい。筆者らが世代的になじんでいるロジャー・ムーアのボンドの特徴といっていい、クールさとおしゃれさとユーモアの完全なる同居は、先人であるコネリーによって完成されていたものを、さらに推し進めて完成されたものなのだ。

<常態化した冷戦とロジャー・ムーアの登場>
 1973年に8作目「死ぬのは奴らだ」で初登場したロジャー・ムーア演じるボンド。前作におけるブロフェルドの死によってスペクターは姿を消した。冷戦構造を逆手に取るような作戦で、世界を緊張状態にさせる一方で、新兵器の威力をかさに直接的に世界を恫喝するやり方など、いずれもスペクターのやり方は世界を相手にしていたし、冷戦の影は間違いなく作品の背景として見る者に刷り込まれていた条件だった。もし今の若い人たちがこれらの冷戦下で展開されていた作品を見た場合、その緊張感はどれほどのリアリティをもって伝わるのだろうか? ところがそんな状況が理解できなくても、ロジャー・ムーアのシリーズが絶対に訴えるものがあるとしたら、それは世界を股にかける男のダンディズムだろう。バトル中にも忘れない軽妙洒脱さ、一部の隙もない身だしなみ、ウンチクなどという言葉では計り知れない様々なスノビズム、どんな時にもあきらめない男としてのしぶとさに、機転を生かした一発逆転を狙うクールさ、そして相手を選ばない自信に満ちたセックス。それはすべての大人の男にとってのあこがれである。そう、コネリーのボンドは野性的でたくましい胸板と胸毛で女性にもアピールしたというが、ムーアのボンドは女性以上に男性に愛されていた印象がある。いや確かにムーアのにやけた表情は、コネリーの逞しさの陰に隠れてしまいがちではあったが、良くも悪くもソフィスティケートされたムーアのボンドは、女性よりも男性があこがれるスマートなボンド像を作り上げたという気がする。もちろん日本では故・広川太一郎氏の吹き替えによって、ある程度方向づけられたものではあるのだが。

 近年70~80年代の映画は地上波で放送されなくなり、テレビ東京の木曜洋画劇場ですら扱ってはくれない。それだけにこれだけ長く続くシリーズも例外ではなく、ムーアやコネリーはおろか、ティモシー・ダルトンすら見たことがない人もいるだろう。ところが筆者が小中学生だった80年代には割と頻繁にこのシリーズが放映されており、男の子はこぞって見ていたし、翌朝の学校での話題になったものだ。先述の通り「007は二度死ぬ」はあまり見る機会に恵まれなかったし、「女王陛下の007」も同様だ。

この2作とはまったく違う理由で、なかなか地上波でお目にかかれなかったのが、ムーア・ボンドの1作目である「死ぬのは奴らだ」なのだ。その最大の理由が、ブードゥー教にさわっている部分だ。本作では表向きカリブの小国の大統領が、実はブードゥー教の司祭であり、島で栽培されている麻薬の販路拡大によって儲けを企んでいる男がボンドのターゲットとなる。これまでもアジア圏を舞台に勘違いされそうな表現や、明らかに間違った日本観などはあったが、ブードゥー教とはいえ地元に密着した土着の宗教にふれているのは、やりすぎと感じたのだろう。日本ではあまりこの作品が放送された記憶がない。またこの大統領のそばにいるのが、タロットカードを操る女性が登場するのだが、この部分にも若干抵触しそうなシーンがあって、こういうところにも気を使っている可能性がある。何とはなしに自粛という文字を頭に思い浮かべてしまう。

 さてロジャー・ムーアの時代のシリーズの特徴であるが、他のボンドシリーズよりも強めのコメディ要素や、どういうわけか他人の女性(特に人妻)ばかりを誘惑する、お色気多目の部分でもない。よりアクティブに、よりダイナミックにボンドは動いて見せる、そのアクション性に目を見張る。そのアクション性はシリーズ9作目「黄金銃を持つ男」で証明される。この物語は素性の知れない殺し屋スカラマンガによってボンドがつけ狙われる物語であり、物語よりもスカラマンガの銃口から辛くも逃げ続けるボンドが追い詰められていく過程が緊迫感を醸し出す。第2作「ロシアより愛をこめて」のほとんどのシーンが長距離急行の中での格闘シーンであり、窮屈な印象だったことを考えれば、ラストシークエンスにおけるスカラマンガの屋敷における暗殺部屋での死闘は、秘密兵器に頼らない頭脳戦としての見せ場もあり、ボンドは機転を利かせて勝利をつかむ。問題はロジャー・ムーアがあまりアクション向きではない俳優だったことが災いというか幸いして、スタントマンを使ってはいるものの、それがかえってアクション性を増したようだ。

 10作目「私を愛したスパイ」は行方不明になった英ソの原子力潜水艦を追って、KGBの女性スパイと共同で捜査をするボンド。だが彼女は物語冒頭でボンドが殺したスパイの恋人だったという物語。ボンドの愛は果たして宿怨を晴らせるのか? 続く11作目「ムーンレイカー」はついにボンドは宇宙へと飛び出していく。打ち上げ直後にハイジャックされ、行方不明になったスペースシャトル・ムーンレイカー。その製造元である会社の社長が企む人類抹殺計画を阻止する話。一見して無関係とも思える事柄が一つの糸につながって、物語が展開していく楽しさが、この作品にはある。この時期のシリーズはまだ冷戦という背景が顔をのぞかせており、東西の軍事的緊張感が物語の根幹をなしているから、シリアスになるしかない。

極め付きは12作目「ユア・アイズ・オンリー」だろう。スパイ船に搭載されていたミサイルを自在に誘導できる装置を巡って、ボンドはソ連と手を組む組織から装置を奪還する物語だ。この映画の冒頭でボンドは既に亡くなったテレサの墓参りをするシーンがアバンになっている。その直後、死んだはずのブロフェルドと思しき人物が、ボンドをヘリコプターに閉じ込めて、そのヘリをリモートコントロールすることで、ボンドに復讐を測ろうとするが、ボンドは機転を利かせて逆襲に転じる、胸のすくシーンから映画はスタートする。シリースはこのような本編とは一見関係なさそうな事件を解決して始まるオープニングは気持ちのいいものだが、本作に登場したブロフェルドと思しき男は一体何だったのか?という疑問が残る。どうやらシリーズの利権関係の裁判沙汰の影響で、ドタバタした内幕の一面が映画に影響を及ぼしたらしい話が伝わっているのだが、そうしたドロドロした話も、こうした爽快なシーンに転換できる明快さは、見習いたいものである。

さらに続く13作目「オクトパシー」は宝飾品の密輸に隠ぺいした西側への核攻撃テロで、相変わらずの冷戦下の世界背景ではあるものの、ある意味で物語の味付け程度に後退している。どことなく最後に付け加えられた感じが否めないのだ。14作目「美しき獲物たち」ではこれが一変し、もはや敵は経済を支配する企業体のボスへと変化する。もちろんこれまでもそうした企業の社長が悪役というのはあるのだが、「美しき獲物たち」はシリコンバレーを壊滅させてのシリコンチップ市場の独占という、大きいのか小さいのかその規模が分りにくかったような気がする。とはいえ年老いたロジャー・ムーア引退記念作品としては、ゴールデンゲートブリッジの上での死闘は、記憶に残る対決シーンだ。「オクトパシー」冒頭のミニ飛行機やワニ型潜水艦など、申し訳ないけど見ていて笑っちゃう秘密兵器もあるけれど、少なくともそんな笑える秘密兵器さえクールに使いこなすムーアのボンドの底力は、どんなときにもユーモアとウィットを忘れない、余裕ある大人の姿を見せつけてくれたのである。

 今回はここまで。誰も望まないのに10,000字を超えるのは、ブログとしていかがなものかとおもうので(ほんと、すいません)。次回はティモシー・ダルトン以降のシリーズを俯瞰してみたい。冷戦がなくなって以降のシリーズの敵は誰か? ボンドはどう変わっていくのかを焦点として、語ってみたいと思います。次回もよろしくお願いいたします。
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波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
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