夏の夜に怪奇をどうぞ~薬師寺涼子の怪奇事件簿~

 「銀河英雄伝説」や「アルスラーン戦記」などで知られる、作家・田中芳樹原作の小説をアニメ化したのが本作だ。放送はU局であり、2008年の7月から9月にかけて放送されていた。私が見たのはその年の暮れのケーブルテレビであったのだが、実に夏の夜向きな話だと思っていた。

 東大卒で警視庁のキャリア官僚、比類なき美人だが、わがままで最悪の性格を有する”ドラよけお涼”こと薬師寺涼子警視が、部下の泉田警部補を引き連れて、さまざまな怪事件を解決するというのが基本コンセプトの物語である。すでに小説は8冊上梓されており、人気のシリーズだ。だがこの作品の人気を決定づけたのは、ビジュアル面で小説をサポートした垣野内成美さんの手によるキャラクター絵だろう。繊細でいてやわらかな線が描き出す薬師寺涼子のビジュアルは、やはり最悪の性格を忘れることができるほどに美人に描かれている。それもよくある楚々とした長髪の美人ではなく、短髪ではつらつとした美しさにあふれた健康美である。このビジュアルなくして、作品の成功は無かったのではないかというのは、垣野内女史を前にしての田中芳樹氏のインタビューでの言である。いやまったくそのとおり。

 かねてより、こうしたアニメ絵になりやすいビジュアルを持っていながら、どうしてアニメ化しないのだろうと思わせる作品であった。だが段階はまず垣野内本人による原作の漫画化からはじまった。月刊アフタヌーン誌において、不定期連載の形態で連載されていた漫画は、原作小説を題材としながら、垣野内による再構成の手が入り、かなりかみ砕かれた印象を持つ漫画である。まあ文字と絵という表現媒体の違いが、顕著に表れたためだろう。逆に漫画化にあたり削られたネタもあるので、どっちもどっちだろう。

 さてアニメの方はといえば、例によって深夜枠、それもU局のみでの放送となった。この作品がイマイチメジャーになりきれないのはそのせいかと思いたいのだが、「涼宮ハルヒ」のヒットがあるので、手放しでそうとは言えないだろう。だがイメージとしてはひっそりと放映し、ひっそりと終わった感じがある。
 本作については、田中芳樹氏による原作の延長上にあるオリジナルストーリーであった。またスタッフに垣野内女史も含まれていない。この点が、ファンが敬遠した原因かも知れない。だが作品自体を見ると、それは全くの間違いであることに気づく。

 本作における物語は、1~2話で完結する、短編連作のような形で作られている。しかしシリーズのラストでは、薬師寺涼子を抹殺することを目的とした事件が発生し、警視庁の暗部にひそむ女傑の陰謀が、涼子を襲うことになる。だがそれは、それまでのシリーズで発生した怪奇な事件の原因となる事柄が、何らかのかたちで関与していたことを示すものであった。反魂の呪法、クローン技術、催眠音波虫、人を操る植物、ガードロボットといったガジェットが扱われた事件が、すべて最期の事件につながっていく様子は、シリーズを見続けてきた者だけにわかる連帯感であろう。そうしたオリジナルストーリーの巧みな構成は、川崎ヒロユキ氏の手によるものである。

 しかし催眠音波虫による自殺や、人を操る植物なんかの話が、どうしたら警察のあつかう事件になるのだと思うだろう。実際見てみると、薬師寺涼子は行く先々でこうした事件にぶつかるという特質があるらしい。だがそれを理由にされてしまうのは、原作通りとは言え、やはり納得のいく説明が欲しいところだ。事件が起きてから彼女が捜査をし始めても良さそうなものであるが、事前に情報を仕入れているのは涼子だけであり、ストーリーが泉田警部補の視点で動くため、視聴者側も泉田の順序に従わればいけない。これはこの物語世界のお約束だ。逆に事件発生後に、警視庁上層部から出動要請があるとしたら、それはもう「怪奇大作戦」になってしまう。尋常では考えられない事件を扱う部分では、共通している2作である。ただこの2作に決定的な違いがあるのは、事件の発生が欲得だけで事情が説明できるのが「薬師寺涼子」であり、時代を反映した重苦しいそれぞれの事情が存在するのは「怪奇大作戦」である。もっともファイル04「武蔵野すみれいろどき」などのように、やむにやまれぬ事情が、本作でドラマになることもあるのだが。

 さて本作はやはり、謎解き部分のドラマが一番面白いのだが、隠れた面白さとしては、涼子が見せるアクションシーンにも見所が多い。決して粗暴な性格ではないが、時と場所に応じて、俊敏そうな体で、短いスカートをものともせず、ハイキックを見舞う姿が随所に見られる。これがまたくらった方が痛そうに見えるくらい、力の乗ったキックを見せるのだ。また2話や最終話などの、ここぞというときに見せる侵入者スタイル(泉田の平服との対比という面白さがある)は、スウェット状の黒いスーツだ。こういう時の涼子はどこまでも本気モードであるから、ビルの1つや2つは完全に崩壊する。こりゃ「ダーティーペア」だね。

 薬師寺涼子役の生天目仁美嬢についてもほめておきたい。wikipediaなどによれば、CDドラマなどもあり、別のキャストが演じているそうだが、私にとっては生天目さん以外のキャストが考えられないほどの、ベストキャストである。涼子という役において、甘えた声もきりっとした声も、泉田をののしる声も、感情のコントロール下に置かれた抑制された声として、100%涼子であったと思う。ご本人のインタビューなどから、アフレコにご苦労なさっているとの話を聞いたが、その努力は完璧に報われていると思いたい。

 最後になるが、本編で使用されているBGMについて触れておきたい。この楽曲群も、必要以上に出来がよい。本編中に使われている曲の多くが、ジャズや室内音楽をベースに作られており、品よくそれでいてゴージャスな感じが良く出ている。OPの曲にいたっては、「007」シリーズばりの、涼子の女体のシルエットに、クレジットがかぶるという演出にあわせて、あやしげで心躍るビッグバンドジャズな1曲となっている。唯一の難点は、CDが分割で発売されていることだろう。はやく1枚にまとまってくれるとありがたいのだが。

 さて、以上のような美点あふれる本作であるのだが、問題はやはり作品としての外連味が足りないという点だろうか。放送コードがどの程度なのか、一度本気で調べる必要があるかと思うのだが、こうした怪奇な事件を扱うとなれば、多かれ少なかれ画面上の「エグさ」や「グロさ」は覚悟する。ところが制作側による必要十分な気の使い方により、このあたりの表現は、かなり押さえられている。その一方で「ひぐらしのなく頃に」などがアニメ化している昨今である。視聴者側が肩すかし食らわされる感じが否めない部分は、どうしてもマイナス側に働いてしまう。
 また原作小説がどうしても大がかりなネタであるぶん、1話完結の連作短編という規模のために、ネタがどうしても小物感が漂う。これを回避するために、最終回までひっぱる大ネタを用意して、ネタも物語も修練させようとしたことは、評価に値するが、1話で視聴を辞めてしまう人にとっては、これがうまく作用しない。ラストに向けての構成が、あだになってしまった感じだ。
 だが、これを映画のサイズに引き延ばしててみてはどうだろうか? 小説版で見られるような大ネタも、映画のサイズや尺なら、十分に機能するはずである。ましてや田中芳樹氏を、正式にブレーンとして迎え、構想を練り、劇場公開作品としてなら、うまくいく可能性があると思えるのだが。その際にはぜひ垣野内女史本人の原画もお願いしたいところだ。
スポンサーサイト

テーマ : アニメ
ジャンル : アニメ・コミック

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

英雄伝説 3rd

英雄伝説 3rdの最新動画や評価レビュー、攻略情報なら「英雄伝説 3rd」へ!

コメント

非公開コメント

プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->