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「猫のお寺の知恩さん」~オジロマコトの漫画は叙情詩である~

 なかなか視聴時間が取れないために、映像作品の記事を書けないので、久しぶりに漫画の話をしてみたい。現時点であまり多くの漫画を読んでいない筆者が、アニメ化に合わせて「ゴールデンカムイ」や「女子高生の無駄使い」などにはまっていながら、中古店を巡っては今更のように「NARUTO」を読み始めてみたりと、なんだかんだと継続的に漫画は読んでいる。その中でもうずいぶん前に連載も終了しながら、そのさわやかな終幕で気持ちのいい余韻を残した作品を取り上げたい。オジロマコト氏の「猫のお寺の知恩さん」(小学館)である。実はこの作品の前に「富士山さんは思春期」(双葉社)という作品も読んでいて、感触として似通った2作品だったので、一緒に取り上げたいと思います。

<2作品のご紹介>
 まずは「猫のお寺の知恩さん」からご紹介したい。本作は2016年から2018年にかけて「ビックコミックスピリッツ」誌上にて連載された作品。主人公の少年・須田源(げん)は、実家から出るために、高校進学を機にと親戚を頼ることになる。そこはかつて幼い日の源がちょっと年上の少女と過ごした思い出の地。源は高校の入学式を前に、想い出の地に降り立ち、そこでともに幼い日を過ごした少女の成長した姿と再会する。「古寺澤知恩」(こでらさわちおん)。彼女は源の再従姉(はとこ)であり、実家のお寺を祖母と共に管理していた。再従姉とはいえ、田舎育ちで素朴な彼女はスキも多く、そのために源はいつもドギマギさせられることになる。実家のある東京での生活と違い、ゆったりとした時間が流れる田舎とお寺での生活、そして新しい環境での高校生活を過ごす中で、源は少しずつ成長しながら、再従姉の知恩への想いを確かめていく、といったお話。CS「フジテレビONE」で放送中の「漫道コバヤシ」にて、ケンドーコバヤシ氏がその最終回を安堵の気持ちで読み終えて、連載終了を喜んでいたのが2019年初頭の話。2106年ブロスコミックアワードにて大賞を受賞した作品である。

 祖父が好きで育てていた猫たちが、源たちの住む寺には住み着いており、出入りする猫も多い。近くには知恩を慕う源の同級生・昼間(ひるま)がいて、源と知恩の仲に割って入る。源は高校進学を機に剣道部に入部するが、経験者である昼間には遠く及ばない。それでも自分が打ち込めるものを見つけた源を、知恩はおだやかに見守っている。一方の知恩は祖父が残した寺をまもることに懸命になっており、夏の檀家回りや読経を覚えたり、お寺の周りを整えたりと余念がない。祖母は孫の知恩が寺に縛られるのを恐れて、それとなく知恩を諭したりするのだが、知恩の想いは強く、その思いはいつしか祖父を継いで住職となる決意を固めるに至る。田舎で暮らす春夏秋冬、そして知恩や高校の友達や先輩たちと過ごす大切な時間を過ごしながら、源は知恩への淡い想いを抱きながら、その想いを募らせていく。同じ時を過ごすうち、次第に源を認め、次第に惹かれていく昼間であったが、自分のやりたいことを決め、東京への大学進学を決めた昼間は、源への告白と共にその想いを断ち切った。そして源は知恩と共にこれからの人生を歩むために、一つの決意をし、知恩や檀家たちを前に一つの決意表明をすることになる。その言葉を聞いた知恩の反応や如何に。そして二人が選んだ結末は……。

 本作に先駆けること4年前。2012年から2016年まで「週刊アクション」(双葉社)にて連載されていたのが「富士山さんは思春期」である。こちらは中学生の男女の、秘密の恋愛譚である。女子バレー部のエースにして高身長で体格の良いヒロイン・富士山牧央(ふじやままきお)。その幼馴染である同級生・上場優一(かんばゆういち)は、たまさか学校で牧央の生着替えを目撃してしまう。その光景が忘れられなくなった優一は、ふとしたきっかけから一緒に下校する。中学生とはいえ女子で、しかも高身長(設定上181cm)の彼女は、すれ違った子供に「大きい」とからかわれるが、牧央はその言葉におどけて見せる。学校では身長をネタにいじってきた男子は、容赦なく手を上げる牧央の、意外な一面を見た優一は、その場で牧央に告白する。牧央の返事は意外にもOKとなり、この日から二人は誰にも秘密に交際を始めることになる。だが二人はまだ中学生。男女交際といっても、何をしたらいいのかわからない。そんな二人が少しずつ歩み寄りながら、次第に想いを募らせていく、というお話である。

 「このマンガがすごい2014」で11位にランクインした本作。少女漫画ならキス一つで大騒ぎ、などと揶揄されそうなものだが、本作ではキス一歩手前で大騒ぎなのだ。修学旅行で男女混合で友達と大騒ぎする中で、牧央の布団に優一が隠れてみたり、バレーボールに懸命になっている牧央を見て、弱小男子バレー部として練習してみたり、夏の運動部合同合宿に参加したり、学校行事や日常の中で仲を深めていく二人。意外なほど奥手で、おこちゃまな牧央が、優一の要求にこたえられず、メールの交換ができないなんていう微笑ましいにもほどがあるエピソードを挟みながら、高校進学を目の前にして、二人はどうなっていくのか? 親でも先生でもない視線で、読者は二人の行く末を見守ることになる。

<2つの漫画が描く叙情>
 結論から申し上げる。この2作品は恋愛叙情詩である。以上。
 とはいえ、ここからくどくどとその説明をしてみたい。
 まず第一にあげられるのは、モノローグがほぼほぼ皆無であることだ。これは「富士山さんは思春期」のwikiにも記事がある通りで、キャラクターが心情を語るような描写がなく、すべては主人公二人やその他のキャラクターの表情によって、読み手はその感情を読み取れるようになっている。これは書き始めの初期段階で編集担当とオジロ氏の打ち合わせにて、明確に打ち出されている編集方針であり、年端もいかない少年少女の、もどかしいにも程がある恋愛事情は、思うとおりに行かないはずで、男子にとっては女子の想いなど知る由もない。その感情を相手の表情によって突きつけられた方は、その表情の裏側にある感情を知って驚く、といったみずみずしい体験を、読者に追体験してもらうという仕掛けだ。

さらに第二に、情報が如実に遮断されている状況が、設定によって出来上がっていることがある。「富士山さん」では「中学生」であること。「知恩さん」では田舎が舞台であること。ともに東京の喧騒や流行、過剰なまでの風俗や言動にいたるまで、情報がシャットアウトされている。「富士山さん」では牧央や優一が中学生であり、なおかつ東京の都心ではなく、どちらかというと片田舎といった風情が背景から垣間見える。都会ではなく片田舎であり、なおかつ中学生。インターネットが大手を振って情報をばらまいている現代とて、その状況では過剰な情報が二人に降り注いだとしても、受け止めきれないし処理できない。その情報のシャットダウンは、牧央が携帯電話を買ってもらって、優一とメールのやり取りができると喜んだのもつかの間、その携帯がお守り携帯であったことを知らなかったことでもうかがえる。周囲の大人ですら、牧央に情報を渡さないのである。

また「知恩さん」で例を挙げると、高校に入ったら免許を取ってスクーターを買うことや、「おしゃどろ」と呼ばれる美容室での散髪が通例であるなどだろう。海に出かけるにも知恩さんが車を借りて源の友人先輩たちと出かけることもそうだし、知恩たちが買物するのに電車で出かけることや、対比として東京の既知に会いに行くエピソードなどにも表れる。こうした「田舎」という環境設定や、知恩さんが寺を管理している状況が、情報の流入を許さないし、東京育ちの源を、その環境にいざない、なじませるため作られている。
こうした情報のシャットアウトはどんな効果をもたらすか? 一つは知恩さんや富士山さんに純朴さ、素朴さが加わることになる。知恩さんや富士山さんの魅力は、その純朴さであり、中学生である富士山さんよりも知恩さんは大人であるにもかかわらず、スレておらず、そのくせ大人びた言動をとるくせに、スキが多い。源にいたずらをしかけたり、少量のビールで酔っぱらって源に介抱させたり、慣れない檀家回りで疲れを出して寝込んでみたりと、そのスキの多さは彼女の純朴さに起因しているといっていい。こうした環境設定こそが、彼女たちの魅力を引き立てているのである。

第三に、ヒロインの2人は恋愛ごと以外に興味の対象がある。富士山さんは女子バレーボール部のエースであり、彼女にとっては優一以外で最も優先順位の高いものである。また知恩さんにとっては、自宅であるお寺の管理と維持がなによりも大切である。特に知恩さんにとっては、大好きだった祖父の遺志を継ぎたいという気持ちもあるが、両親が海外に暮らしているためか、両親が帰る場所を維持することもあるかもしれない。その意思が免許を取って寺の住職になるという選択へとつながっていく。もちろん檀家さんがあってのお寺でもあるから、地元愛や地域愛もあるだろう。だが知恩さんは、東京へ出ていった友人や、大学進学で東京へ出ていった昼間の還る場所としてのお寺を、心から大事にしている描かれ方がある。そうしたヒロインたちが目指したり目的としたりする何かが存在するから、眼中になかった恋愛ごとが目の前に降ってわいてくる瞬間に、彼女たちの感情の揺れが垣間見える。第二の項で触れた情報をシャットアウトされた環境は、彼女たちを包むゆりかごとして設定され、恋愛によってこの殻を破ることで、主人公は人間として成長し、新たなステージへと進んでいく。3つの要素が互いに絡み合いながら、2作品で描く恋愛叙情は、情感豊かに、魅力的に描かれている。

<叙情詩漫画の価値>
 主人公たちの揺れ動く感情を、モノローグでなく表情やまわりのキャラクターの表情、場合によっては猫のキョトン顔ですら表現できるあたりの情感の豊かさが、この作品たちには確かにある。こうした豊かな情感を誘い出すための設定、そしてモノローグによる一方的な一人語りを許さず、主人公である二人の感情の揺れや、驚きを表情で表現する。こうした叙情的表現はこの2作品の至上の価値だと思う。

 かつて石ノ森章太郎氏が漫画という媒体で挑戦を続けた一つの成果として、「ジュン」という漫画がある。1967年から71年にかけて雑誌「COM」に掲載されていた作品で、台詞や吹き出しをほとんど用いずに、主人公の少年ジュンの心象風景を、絵とコマの流れだけで表現した作品で、石ノ森氏のいわゆる「実験的作品」と言われている。実際には他誌での連載で多忙だった石ノ森氏の苦肉の策であったとの言説も残されているが、絵とコマの流れによる表現も、台詞を多用しないことも、読者に必要最低限の情報だけ提示して、あとは主人公の心情を推察するしかない漫画は、あまりにも文学的で、しかも誌的であった。あくまで主人公・ジュンの心理風景として描かれた大コマの漫画ではあるが、石ノ森氏の筆致や絵画的表現の匠さも確認できる作品は、単行本として読むと読み込む楽しさは半減するものの、まるで絵画を鑑賞するかのようにコマの隅から隅まで眺めたくなるような漫画であり、その表現故に描かれた情感は豊かであった。
 なお、この作品については、石ノ森氏の手塚治虫氏の間に確執があったことが知られている。手塚あるいは石ノ森に関するドラマでも再現されているので、よく知られた話ではあるが、手塚の嫉妬によってこの作品が連載打ち切りになる可能性もあったという。後に自身の否を認めた手塚が、石ノ森にわざわざ謝罪したエピソードが知られている。漫画の神様とまで呼ばれた手塚の、人としての当たり前の感情や、他人の作品に意欲を燃やして自身のモティベーションにする人となりを知る話でもある。

 本記事で取り上げたオジロ氏の2作品は、「ジュン」のような文学的な修辞表現の手前に存在する漫画であり、漫画表現はあくまで漫画のそれでありながら、描くのは現実の地平に足の着いた、恋愛叙情詩であると思うのだ。もちろん「恋愛」という感情が主体ではあるが、それでもあくまで現実におこりそうな出来事を、丁寧にすくい上げてエピソードとし、切り取ったエピソードを過剰に演出することなく、主人公たちの表情で情感に寄り添って語っていくスタイルは、「ジュン」につながる文学的表現の作品であると思う。シンガーソングライターのさだまさしの楽曲に「朝刊」や「雨やどり」といった作品があるが、彼が作るコミカルな曲は、エピソードを切り取り、積み重ねて情感豊かに歌い上げる。こうした作品は特にオジロ氏の2作品と共通性が高い。

 読んでいた間は気にも留めなかったのだが、オジロマコト氏が女性の作家さんであることを、本記事の執筆中に初めて知った。青年誌を舞台にこうした情感豊かな叙情詩を歌い上げるのは、バイオレンスやアンダーグラウンド的な出来事が横行する雑誌の中で、一服の清涼剤になっていることだろう(雑誌ベースで読んでいないので知らんけどw)。現在「ビッグコミックスピリッツ」で連載中の「君は放課後インソムニア」も、スタートダッシュから鼻の奥がツンとするような情感で描かれている。かつてはアダルト向けの漫画も執筆していたようだが、知恩さんや富士山さんの肉感的な表現もさもありなんといったところか。今後の要注目の漫画と作家さんである。
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