書評:「これが「演出」なのだっ」(大地丙太郎著)

 今回取り上げるのはめずらしく「本」である。いつだったか「十兵衛ちゃん」をとりあげた事があったのだが、今回ご紹介する本の著者は、「十兵衛ちゃん」の監督である。ほかにも「ギャグマンガ日和」だとか「こどものおもちゃ」、「りりかSOS」、「おじゃる丸」などでも知られる監督である。

 それにしてもこの本を含めた「講談社アフタヌーン新書」というのは、実に面白いラインナップである。一般的なサラリーマンむけの「新書」の体裁をとっていながら、どこか小金をもっているいい大人をターゲットにしたラインナップを見せている。当然そのあたりの商売じみたいやらしさも感じるのだが、いまさら「あかほりさとる」氏の名前で、目くじらたてることもないだろう。そんな血気盛んな頃はとうに過ぎている分別のある大人オタクが、著者とタイトルでつい手に取ってしまう、そんな魅力と罠に満ちあふれているラインナップである。私は「ああっ女神さまっ」の藤島康介氏の著作と、「ジオン軍の失敗」という本を拝見した。どちらも楽しませてもらったし、新書らしく得ることも多かった。

 さて今回のお題である「これが「演出」なのだっ」であるが、これも大変楽しく拝読させていただいた。なんといっても大地監督の筆致が、すばらしくテンポがいい。まるで「ギャグマンガ日和」の演出テンポにほぼ近しいイメージなのだ。おかげで今日の午前中に読み終えることができた。こんなに早く読み進めていいものかと、少し戸惑うほどだ。
 けれどこの本については、今後も何度か読み返す事になりそうだ。特に大地監督の「絵コンテ」術、特にカットの割り方、カットのつなぎ方、どうやって面白いカットを作るかという議論については、現場ならではの苦労が忍ばれる内容でもあり、今後アニメを見る上での参考になるのは間違いない。監督の意図が、コンテによってどこまで浸透し、その内容を斟酌して各アニメーターが作画するのか、という実際の作業の流れを意識しながら、アニメを見ることができるようになる、そのための重要なテキストがこの本には含まれている。特に第2章における監督の仕事術、絵コンテ術を見る限り、それがアニメとなった作品自体をよく知っているだけに、私にとっては具体的なイメージとして理解できる。それはカット単位や原画単位でアニメを見る思考をの方法を、読者に提示しようとしている。

 私にとっての心の師は「氷川竜介」氏であるのだが、彼のようにアニメを原画単位で分解したり、時間の流れの中で、セル画の中のキャラクターの動きに注目した理解をすることが、いまだにもってできないままだ。もっともそういった理系な評論については、先達にお任せするしかないと考えている。私は、できればドラマ寄りや設定寄りに視点を置き、見たときの驚きや感動など、自分の内側にわき出した言葉を紡いでいく方法をとっており、できるだけ平易な言葉で、次の議論の土台となるような表現で、アニメや特撮にせまりたいと考えている。だがそうはいっても、アニメーションというものの成り立ちが、極度に分別化された作業の中で生まれている事実を考えれば、その作業過程におけるあらゆる場面が、出来上がった作品の感動を生み出す原動力になっている可能性は否定できない。その意味でも細部にこだわる必要性が出てくるわけで、氷川氏のようなアニメに対する真摯な接し方ができないのであれば、少しでもその方法を模倣したいと願っているだけなのだ。そのための第1段階として、この本は非常に敷居が低く、わかりやすいと感じた。

 第3章では、彼がアニメを監督するときにおける、作画や絵コンテ以外での仕事に着目している。前章までが比較的閉じた作業の説明であるのに対して、この章では対人折衝などの場面での仕事について語っている。特に彼が自作に起用する声優さんである「斎藤彩夏」さんや「名塚佳織」さんなどの出会い、「十兵衛ちゃん」で起用したSETの小倉久寛氏や、「十兵衛ちゃん2」で出演した目黒祐樹さんや竹内力さんなどのエピソードが収録されている。これがまた面白い。大地監督は今はやりの芸能人などを声優に起用する手法に、疑問を感じている一人であるが、本人がこの本で自画自賛しているように、キャラクターとその声に関する選択眼(耳かもしれないけど)は、かなり独特で面白い。その根本にこんなエピソードがあったのかと、そういう内容でも非常に楽しめる本になっている。

 多分であるが、大地丙太郎監督という人は、エンターテナーである。まずアニメーションに関するエンターテナーであり、なおかつ人間として自分を楽しませるエンターテナーである。当然人を楽しませる人には、人知れず苦労するという「裏」が存在する。その「裏」さえもエンターテナーに徹して、この本のように楽しませてしまう大地監督は、全方位のエンターテナーであるのだろう。彼の作品が底抜けに楽しい事情はここにある。だが同時に、そのしんどい「裏」さえも見せきって、最終的に丸く収めてしまう。そんあエンターテナーっぷりは、本書を読んでから、あらためてその作品にふれることで、十分に味わえるはずである。とりあえず、アニメ業界に興味のある人は、一読することをおすすめする。決して読んで損になどならない1冊である。ってか、これを読めば、何が面白くて何がつまらないか、その自分なりのビジョンが浮かんでくると思う。そんなあなたの今後のアニメライフに、1つの指針を授けてくれる1冊でもある。

アフタヌーン新書 010 これが「演出」なのだっ 天才アニメ監督のノウハウアフタヌーン新書 010 これが「演出」なのだっ 天才アニメ監督のノウハウ
(2009/08/11)
大地 丙太郎

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波のまにまに☆

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