がんばれば、愛~とらドラ!~

 「とらドラ!」は今年の3月に終了した作品である。この作品にのめり込んだのが今年の2月。まことにもってスロースタートであり、物語もクリスマスパーティーの話で、大河が竜児への気持ちに気づくくだりだ。逆に言えばそれまでの物語を知らずに見てきたので、DVDがレンタルで並び始めた春から、新作料金を払ってまで見てきたのだが、ここにきてようやくすべての話がつながった。全話視聴完了のおりには、ぜひとも取り上げておきたいと思い、その願いがついに叶うときが来た。

 物語は高校2年の春に、主人公の一人高須竜児が、もう一人の主人公逢坂大河に出会うところから始まる。「手乗りタイガー」とあだ名される少女・大河は、その小さな体と人形のような愛くるしい容姿に似合わず、攻撃的でえらそうで、そして真性のどじっこである。また竜児は、目つきが鋭いという、顔も知らない父親の遺伝により、人から疎まれている存在である。そんな他人とのつきあい方がよくわからない二人が、同じクラスになり、お隣さんとして生活する。マンションに一人暮らしの大河は生活不能力者。一方の竜児は母親の面倒を見るほどの生活有能力者である。しかもかなりのお節介。だから竜児はいつのまにやら自分に大河の面倒を見ることを課していくことになる。それは大河が、竜児の友人・北村に恋心を抱いているのだが、その想いを果たせずにいたところを、見るに見かねた竜児が手助けすることにも発揮される。その姿は大河の友人・櫛枝に想いを寄せいている竜児自身と重なったからかも知れない。互いの恋の行方を相談し、助け合い、失敗し、ののしりあいながらも、一緒に過ごす時間も増え、互いが遠慮なく言葉を交わす相手であると認識するに至る。そして二人は互いを大事に思いやるがゆえに、互いの恋に固執するため、誤解を繰り返す。そのたびに友人達の力を借りて、くっついたり離れたりを繰り返す二人は、さんざんな想いの末に結ばれる、というお話だ。

 いやもう竜児と大河の恋物語であり、最初は意識していなかった二人が、互いの恋の応援を機に、親密になっていき、最後は二人が結ばれるという、言ってしまえばそれだけの話なのだ。いやもう、それはそれは見事なまでに、それだけの話である。そんだけの話が、なぜにこれだけ多くの人々に愛されたのか? それは多少なりとも誇張はあるにしても、誰にとっても輝かしい思い出である「高校時代」という時間設定が、視聴者個々人にとって身近な設定であるからだ。そしてそれ以上に重要なことは、この物語に出てくるキャラクターは、全員全力なのである。

 まず逢坂大河は、常に全力である。たとえば第1話で北村へのラブレターを竜児に読まれたと思い込んだ大河が、竜児を木刀でぶちのめそうとするシーンがあるが、どの漸撃も全力に見える。しかも脳天かち割って竜児の記憶をなくさせようとする。全力の方面が見事に間違っている。また序盤に参戦する川嶋亜美との水泳勝負では、バタ足しかできないくせに、卑怯な手口を使ってでも、足がつっても勝負をやり遂げようとする。まさに全力だ。方向ミスってるけど。

 そして櫛枝実乃梨も全力である。友人・大河を見守る視線はあたたかだが、テレビではあまり語られない弟へのコンプレックスゆえに、バイトにソフトボールに全力の毎日だ。そして日常を楽しむことを忘れない。面白いことは率先して行うし、なによりノリがいい。そんな日常も全力でこなす彼女は、ダイエットさえも全力なのである。そして大河を思う気持ちも全力である。

 実乃梨同様に日常に全力なのは竜児の友人・北村だ。だが彼の全力の裏には、生徒会長・狩野すみれへの恋慕があった。だからすみれの不可解な行動に、全力で反抗して金髪になったりする。その全力の想いは大河に通じたのか、大河がすみれと演じる大立ち回りは、中盤の名シーンになっている。その全力にだれもが涙するだろう。

 こうした自分の思いや恋に全力な人々を横目に、竜児はなんとなく過ごしていた日常から引きはがされる。竜児の全力は、まさに大河がもたらしたといって言い。そうでなければ実乃梨に告白することもできなかったろうし、大河の恋の力になろうともしなかったろう。その全力さ故に、やっと想いが通じた実乃梨とは破局を迎えてしまうことになる。そしてその全力が大河に向かっていることを、あたらめて知ることで、竜児は素直になっていく。

 中途参戦した川嶋亜美も、この全力に巻き込まれた一人だろう。モデルとしての仕事をしていたが、カメラ小僧のスートーキングで、竜児たちの高校へ転入してきた彼女は、北村の親戚であった。その二面性はすぐに大河に知られることになり、ことあるごとに二人は衝突する。そして本気でものが言い合える全力の環境を、このましく思うようになった。そしてカメラ小僧が高校にまで追いかけてくるに及び、大河のように暴力に訴えることで、カメラ小僧のくびきを脱出することができたのだ。

 雪山で行方不明になった大河を探した竜児、クリスマスにサンタに会うためにいい子にしていると決めた大河、バイトに明け暮れる実乃梨、そしてそんな仲間になりたいと願う亜美。だれもが全力だ。その全力のがんばりが胸を打つ。全力の理由はそれぞれだ。恋だったりコンプレックスだったり、失恋だったり。でもどんなときでも、全力で自分を見つめ直して問題解決にあたろうとして傷つく彼らは、たぶんぼくらの写し身だ。そして僕らは、そんなに全力でなかった自分を、少しだけ恥じている。だから彼ら4人の全力がまぶしく写るし、胸を打つんだと思う。

 大河が竜児への想いに気づいたあたりから、物語は大きく動き出す。特に遭難した大河の独り言で、大河の気持ちを確認した竜児と、その気持ちに気がつき身を引こうとした実乃梨のやりとりが見られる22話あたりから、気持ちと台詞がぶつかり合う。23話「進むべき道」で、バレンタインのチョコをプレゼントしようとする大河が、他の4人と対峙するシーンでは、互いの気持ちのぶつかり合いと、大河の優しさが涙腺を直撃することになる。逃げる大河も全力なら、おいつめる実乃梨や北村も全力だ。作画やそのアクションを問題にするなら、これよりいいシーンはいくらでもあるだろう。だがぶつかり合う気持ちが渦巻く夕方の教室が、これほどまでに熱く、切なく見えたのは、たぶん最初で最後だろう。

 一度は竜児のもとを離れ、一人で生きていくことを選ぼうとした大河は、竜児と互いの思いを確かめ合う。時折しもおたがいの両親と仲違いしたあとであった。それでも自分たちの思いを貫こうとした二人は、全力で走り出す。だが二人だけがしあわせをつかむのではなく、みんなでしあわせになる方法を模索しようと立ち上がった二人は、まず竜児の母・泰子を取り戻そうとする。どこまでも律儀で全力な二人なのだ。泰子の実家でキスをする二人は、何度も互いを求め合う。何度も、何度も。ここでも全力なクロージングではないか。大河も自分の実家の問題を片付けるために、竜児の元を離れる。少し寂しいラストではあるが、きちんと大河が帰ってくるシーンで終わるのがうれしい。

 この物語はほんとうに全力でできている。全力でがんばるキャラクター達の姿が、どれだけ嘘に見えてはいても、その全力を否定することは難しいだろう。それは彼らと同じ高校時代に、全力になりきれなかった自分に対する後悔と、後ろめたさかも知れない。人によってはその全力に心から得心がいったと思う人もいるかとは思うけど、大多数は彼らの全力をうらやましいと思うに違いない。全力で楽しみ、全力で恋をし、全力で失恋する。全力で想いをぶつけ合い、全力でなにかに打ち込む。そこにあるのは成功や失敗という結果ではなく、全力を出した事実だけだ。そんな言葉にすれば恥ずかしくなるような事実があるから、目を背けたくなるし、まぶしくもある。

 ここで引き合いに出すのは正しくないかも知れないが、前回取り上げた「青い花」のふみや恭己と比べてみて欲しい。彼女たちの後悔は、おそらく全力になれなかった自分への罰だと受け止めているように見える。あきらめも早い。1話から大河への想いに気がつくまで、実乃梨を思い続けた竜児や、北村を思い続けた大河とは異なるところだ。それは相手が同姓であることへの背徳観もあるかもしれないが、それを是とできるふみが、それでも全力にはなれないいらだちがある。この差は大きい。

 がんばれば勝ち取れる、がんばれなければダメというような、単純な二元論で語ることはできない。ただ全力でがんばる姿そのものは、やはり人の胸を打つに値する何かがあることだけは確かだ。それは24時間テレビのチャリティマラソンのテーマそのものと同じでもある。嘘くさいとは思っていても、ランナーががんばって走っている事実は変わらない。そしてがんばれた竜児と大河の想いは、二人の恋の成就という形で報われた。それは二人の全力のがんばり故だ。
 でも全力ってわかりづらい。どうやって全力になったらいいのか。その力加減もわからない。たぶん全力って、力加減なんか考えないことなんだろうけどね。全力って難しい。さておれも就職活動、がんばろうっと。

追記
 タイトルの歌詞をご存知の方、だまっときましょうね。年齢がばれますよ(笑)。

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コメント

非公開コメント

全力でぶつかるスポ魂物に通じる気持ち良さがありますよね。

微妙な表情変化のが多彩でそこからキャラの気持ちを考えていく楽しさがありました。 

最終巻をまだ見てないのでそれを楽しみに日々生きています(笑) 

小説版で補完してアニメをまた見直すとさらに深い作品だと思います。

No title

とぴろさま
 毎度コメントありがとうございます。
 小説版はまだ追いついていません。他にも読みたい本があって、焦るばかりです。
 「とらドラ!」はキャラクターの表情が豊かで、1話単位で見ていても、その表情や心の機微が見て取れる作品です、何度も見直して、また気がつくことがあったら取り上げてみたい作品でもあります。自分の好きな作品は何度も見直してスルメのようにしゃぶり尽くす事ができるのがうれしいですよね。そんな作品に1つでもたくさん出会いたいなと、いつも思っています。とぴろさんのお気に入りも、いずれ教えてくださいね。

今最終巻を見終えました。ネタバレが有りそうだったので飛ばして読んでいたので見直しに来ました。
まにまにさんの言うことが理解できました。

泣けました。とらドラは名作です。

はじめましてよろしくお願いします。僕は特撮や昭和のロボットアニメなどが好きです。今更ながらコメントさせていただきます。とらドラは見てました。アニメでは極上!めちゃモテ委員長やきらりんレボリューション好きですが現在ではアイカツ見てます。みなみけやけいおんもいいですね。またヤフーブログやっており今後の特撮リメイクで希望しているキカイダーX石ノ森ヒーローオールスターキャスト(ライダーと戦隊は除く)を実現させるため是非いらっしゃい。

No title

アミーゴ今野さま
 コメントありがとうございます。そちらのブログにもお邪魔しますね。
 女子ものがお好きのようで、私が扱いにくい作品であることは告白しておきます(泣)
 本ブログでアミーゴさまのお眼鏡にかなう記事がありますれば幸いです。

とらドラは北海道では月曜日の深夜に放送してました。前期の主題歌CD持ってます。今やっている女子ものはアイカツとプリティーリズムくらいですね。何かあったらメール下さい。僕のヤフーブログのコメントさせてもらったのが削除されてました。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

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