少女の決断が世界を導く~シャングリ・ラ~

 アニメ製作会社「GONZO」に何があったって、こういった良質な作品を作る事ができる力量があれば、きちんと業界で生き残っていける。少なくてもそういう世の中であって欲しいと思う。これまで「GONZO」が製作してきた作品群が、SFマインドにあふれ、映像技術のさまざまな試みをし、世に問うてきた実績を思えば、ごく普通にそう思える。そして何より、こんなSFチックな作品が、今のアニメ業界にもう少し増えてもいいと思うのは、独りよがりだろうか。今回取り上げる「シャングリ・ラ」という作品は、昨今のファンタジーや萌えアニメ全盛の時代に、「GONZO」というブランドを背負った会社が送り出したSFアニメである。それもかなり歯ごたえのいい作品だ。この1点だけでも、今の時代には価値があるだろう。

 近未来の東京。それは樹木が繁茂した世界、そして空中に浮かぶ巨大な都市・アトラス。人々はわずかな陸地に住み着き生活を営む一方で、アトラスで生活するものもいる。世界は株価による経済を放り投げ、各国が排出規制を始めた二酸化炭素排出量で経済を動かす時代となっていた。陸地に住む者と空中に暮らす者との貧富の差は激しく、やがてそれは対立の構造を強めていく。そんな世界で、反政府組織「メタルエイジ」の一人である北条國子は、そのカリスマ性を発揮して、アトラスとの闘争に身を投じる。やがてメタルエイジの頭目となるにおよび、自らの出生とアトラスの後継者の座を巡って戦いながら、世界の真実を目撃する。

 一見取っつきにくい印象もあるが、ジャングルと化した東京の風景や、炭素経済の設定、空中都市と地上の生活の対比、國子や美邦の出生など、久しぶりにSF感を感じさせる世界設定が、見ているこちらの心を浮きだたせてくれる。そしてキャラクターデザインの村田蓮彌氏による、國子のビジュアルがかわいらしさを見せてくれる。彼女がOPでも見せるブーメランの動き、空中に飛び上がってブーメランを放ち、地上に着地するまでの一連の動きは、まさにこれまで「GONZO」が培ってきたテクニックの集大成であると感じられる出来である。ラスボスとなるアトラス首脳の鳴瀬涼子、国を治める美邦、カーボニストの香凜、政府軍の草薙、そして國子と、めまぐるしく変わる場面やキャラクターにより、物語の実態すらつかませずに事態だけ語るような前半ではあったが、國子がメタルエイジの頭領となって以降の後半では、スピーディに事態が流れ、俄然面白くなってくる。やはり2クールある物語はひと味違うことを思い出させてくれる。
 特に國子の出生の秘密については、原作と異なる人物となっているが、日本史としての意味合いを考えると、どちらの設定も面白い。また日本人のカリスマ性も、そこまで遡らないといけないほど、人間性が後退している世界なのかと、めまいがする思いだ。
 残念ながら前半のやや中だるみのような話や、最終回まで見られたアクションがつながらないような明らかな演出ミスなどもあった。しかし作画のクオリティや物語構成も安定した、良質の作品として仕上がっている。何よりも堂々とSF作品であるこの作品が、打ち切りもせずに完遂できたことがうれしい。SFでありながら設定を完遂できなかった「宇宙をかける少女」と比較すればおわかりになるだろう(ただし「ソラカケ」はテレビオリジナルの作品である)。

 さて物語の序盤以降、國子はアトラスの後継者に目された。美邦は事実上、國子の妹であり、彼女もアトラスの後継者だった。國子も美邦も、手垢のついた言い方を許してもらえるなら「仕組まれた子供」たちなのである。國子は高いカリスマ性と高度な身体能力を有しており、そのカリスマ性にも出自の秘密に由来する。そんな彼女がメタルエイジの頭目として、アトラスと対峙するキャラクターであることは、一目瞭然なのである。なのであるが、ここで試みに問いたい。どうしてこの物語の主人公は彼女でなければならなかったのか? どうして地上に住む普通の娘ではいけなかったのか?

 「美少女戦士セーラームーン」における月野うさぎは、ごく普通の少女がある日突然、変身能力を得ることで、日常を脅かす敵と戦う事になるのだが、それは前世におけるプリンセス・セレニティとしての宿命であったことが判明する。宿命という点を比較すれば、月野うさぎは國子と異なる。國子はいついかなるときも選択を迫られたときに、悩みながら、モモコに相談したりしながら、結局は自分で決断してきた。そして自分の責任において事態を切り開こうとした。月野うさぎが消極的に宿命を受け入れたこととは、決定的に異なる点だ。もう一つの比較対象として、「少女革命ウテナ」の天上ウテナを見てみると、彼女は決闘(デュエル)の結果として一見決断しているように見えるが、決闘することを選択しているだけであり、手に入れられるものと手に入れられないものを、決闘の結果として消極的に受け入れているようにも見える。それは自らの意志で手に入れようとする國子の決断主義的な世界へのアプローチとは異なるものだと思える。そうした決断主義は、(久しぶりだが)「ゼロ年代」的なものの考え方であるから、「シャングリ・ラ」という作品および、主人公の國子という戦闘美少女は、まさしくゼロ年代後におけるゼロ年代的物語とキャラクターであったことになる。それ故に、アニメ化された年度は遅いものの、本作は明らかに「ゼロ年代」に位置する作品になるのだろう。
 もう一つ付け加えるならば、國子自身、自分の能力、特にカリスマ性については意図しないことが多く、それが出自にまつわる原因を有しながら、出自にも執着を見せないことが、國子の強靱な精神の一端を物語る。それは決断とは、意志の力そのものであることを示しているかのようだ。

 以上の理由により、決断する意志を持ち、事態を切り開く能力がある故に、彼女はこの混沌とした世界を舞台にした物語の主人公たり得ているのである。受け入れるままに担ぎ上げられたそこらの少女が、なんの意志も持たず、自己主張もせずに世界を相手に一旗揚げられるほど、世界は柔弱にできてはいない。
 その一方で、日本人のメンタリティとして、革命が成功するためには、そのカリスマ性に根拠が必要だと思っている可能性がある。特に戦中戦後に実行された軍部のクーデターを見る限り、単なる時代の流れやカリスマ性だけで、革命は成功しないことを知っている。だから革命が成功するとしたら、なんらかの知られざる事情があることを疑っている民族なのかも知れない。だから何にも知らないノーてんきな少女が、世界を変えていく物語など、だれも良しとすることはないのだろう。「宇宙をかける少女」に納得できない理由がここにある。

 

シャングリ・ラ 通常版 第1巻 [DVD]シャングリ・ラ 通常版 第1巻 [DVD]
(2009/07/24)
高橋美佳子(北条國子):有賀由衣(美邦):井口裕香(石田香凛):石井真(草薙国仁)

商品詳細を見る

スポンサーサイト

テーマ : シャングリ・ラ
ジャンル : アニメ・コミック

コメント

非公開コメント

プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺☆NHK杯11/11初体験

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->