上映時間と物語の振幅に関する考察~劇場版「クラッシャージョウ」~

 前回「幻魔大戦」を取り上げたが、同時期に公開された作品についても紹介しておこうと思う。今回取り上げるのは「クラッシャージョウ」である。本作は当時朝日ソノラマで刊行されていた高千穂遥氏の傑作小説を原作に、小説の挿絵を担当していた安彦良和氏が監督を務めた作品である。安彦氏はこれが監督デビューである。
 1982年春に「機動戦士ガンダムIII」が完結。同年夏には「イデオン接触編/発動編」がダブルリリースで公開される。このとき富野監督は「戦闘メカ ザブングル」を手がけ、多忙だったから、1983年に松竹配給で上映できるアニメ作品がないことになる。そこで白羽の矢が立ったのが、安彦氏だったのではないだろうか。これはあくまで推測。

 現在よりも遥か未来。宇宙を舞台に、さまざまな危険な仕事を請け負う人々が誕生する。その名は「クラッシャー」、壊し屋の異名を持つ彼らは、種々のスキルを遺憾なく発揮し、惑星改造や要人警護、はては人命救助まで、宇宙のあらゆる危険な仕事に果敢に立ち向かう。その中でも19歳という若い年齢ながらも、特Aランクに位置づけられる傑物がいた。それがクラッシャージョウだ。彼は3人の仲間とともに、依頼された仕事を進めるべく、宇宙を駆ける。

 本劇場版では、宇宙海賊マーフィー・パイレーツを相手に丁々発止のバトルを展開。新型ワープ装置とその開発者である女性科学者、その利権にまつわる惑星国家の暗躍を暴く大活躍を見せる。なお本作についてはソノラマの外伝「虹色の地獄」として、ノベライズもされている。現在早川文庫で刊行されているシリーズも、いずれここまでたどり着くだろうから、興味がおありなら一読をおすすめする(古本屋に行くと意外においてあります)。

 本作品の一番の売りは、なんといっても「安彦良和初監督作品」としての価値だろう。すでに多くのアニメーションで活躍し、前年までに「機動戦士ガンダム」のアニメーターとして活躍した氏に対し、アニメファンは誰しも大いなる期待を寄せたのだ。また「スタジオぬえ」がメカニックデザインを担当することも、話題の1つだろう。彼らの起こしたミネルバやファイターのデザイン、またパイレーツが使用する種々のメカニックについて、そのかっこよさはまさしく当代随一の出来映えだったろう。

 実際に本編を見ると、独断映像技術的には見るべきものはない。しかし安彦氏の絵があれだけ魅力的に動くのだから、それだけでも見る価値は高い。その作画レベルの高さは言うまでもない。物語開巻当初のバスチェイスのあと、ジョウたちの仕事が、メインテーマをバックに流れるのだが、このシーンには音楽だけで台詞がない。にもかかわらずジョーたち4人がいかに厳しく危険な仕事を、プロフェッショナルとしてクリアしていくかが如実にわかるシーンとなっている。まずここで観客は度肝を抜かれることになる。ジョウが操るファイターが、小惑星内で発生した爆発を避け、待避シャッターの降りる瞬間にすり抜けるシーンなど、非常にスリリングだし、爆発から飛び出すファイターのタイミングのよさ、ミネルバとファイターの大きさがわかる対比など、この1シークエンスだけで十分おつりが来るほどのクオリティである(このシーンのディティールについては、前述の「虹色の地獄」に詳しい)。メカニックについては、さらに宇宙軍がほこる重巡洋艦コルドバが回頭するシーンを、詳細に作画しており、気が狂うほどのものすごい作画が見られる。当時から話題になっていたシーンであるから、歴史的な意味でも一度ご覧になるといいだろう。いやもう脱帽するしかない。

 そのくせ、謹慎をくらったジョウたちが、ディスコで大暴れするシーンでは、打って変わって愉快でコミカルなシーンが連続する。それまでのジョウと仲間の少女・アルフィンとのダンスシーンなど、かっこいいシーンも見せるくせに、大乱闘のシーンでは、シンセを多用したディスコミュージックをバックに、4人が4人らしい大立ち回りを見せる。しかも衣服までぼろぼろにしながらだ。つぶれたディスコのシーンから暗転すると、とあるカフェでの治療のシーン。ここでもコミカルなシーンはつながるが、ジョウまでもとことんギャグに徹しており、容赦がない。たとえヒーローであったも、ギャグのために容赦なく絵を崩す、そうしたこだわりが、楽しいシーンをさらに楽しく見せるのだ。

 物語はジョウたちが欲を出して、さる財閥の女性を運ぶ仕事を請け負うところから始まる。そしてその運搬の途中で謎のワープ事故に遭遇し、ジョウたちは宇宙軍から海賊行為の容疑で逮捕されてしまう。クラッシャー評議会の助け船で解放されたものの、謹慎を食らったジョウたちは、昔の仲間であるバードから、今回の謎の事故の背後に、宇宙海賊が暗躍している手がかりを聞き出す。ジョウたちは自分たちの嫌疑を晴らすため、海賊たちの巣になっている惑星に向かう。ジョウたちはそこで惑星を裏で仕切るマーフィー・パイレーツと激しいバトルの末、追い詰めることに成功する。その影で、惑星の大統領とマーフィーが、新型ワープ装置の利権を巡って対立していた事実を知る。しかしワープ装置は未完成であり、完成のためには、ジョウたちが最初に運んだ女性・マチュアの協力が必要だったのだ。そして暴走し、近在の戦艦を消し始めるワープ装置を止めるため、ジョウやマチュアが奮闘するのだ。

 安彦氏が監修する作画はすばらしいの一言に尽きる。またメカニックをはじめ、人物のアクションも見応えがある。ストーリーとしての見せ場も多い。だがしかし、ここまで出来物でありながら、不遜を承知でいうならば、上映時間が長い(132分)のだ。長いといえば、同時期に公開されていた「ヤマト完結編」は150分もあるのだが、こちらは物語が終了してからのクロージングが長すぎたのである。それはまさに「完結」しようとするヤマトが、観客に向かって「さよなら」を言っているのだと、好意的に解釈すればまだ許せるのだ。だがこちらの132分は、ひたすら物語を語っているのだ。そして長さに比例して物語の起伏が小さい。いや小さくは無いのであるが、波の振幅周期は大きいほど、その波の高さの比が小さくなるのに似ている気がする。
 個々のシーンやアクションなどの見せ場が断続的に続き、その時間が長くなるにつれて、盛り上がりの効果が薄れてしまうように思えるのだ。高千穂氏の原作と比較するとわかりやすいのだが、原作では一度戦闘シーンに突入すると、ハイテンションのまま事態が侵攻し、息をつかせぬままにラストシーンまでなだれ込んでしまうような傾向がある。だがそれをアニメーションで表現できない。シーンとシーンのつなぎを考えると、緩急をつける必要があるからだ。そうしてできた物語やアクションシーンの振幅は、個々の説明時間が長くなるにつれて、山場としての特徴を減じてしまう。その結果が、本作のようにやたらと時間の長さだけが気になってしまう結果となったのだと思う。
 いやシーン単位で見れば、そのボルテージの程は痛いほどよくわかるのだ。しかしその刺激にもどうしても慣れが来る。結局慣れたところで、静かに終幕を迎える物語では、カタルシスが感じられるようなラストシーンにはならない。その結果、余計に長く感じるし、見終わった後の爽快感も得られにくいのだ。

 作品自体は非常に面白い。高千穂氏の原作であるスペースオペラが、映像として目の前で展開されているのだ。しかも安彦氏のハイクオリティの映像でだ。実写映画でもスペースオペラとして傑作たり得る作品はあるだろうが、これに比肩するアニメ作品は決して多くない。本作は前述のような欠点があるにしても、それを補ってあまりある美点により、十分楽しめる作品である。またSFあるいはスペースオペラの傑作として、十分に価値ある1本である。見ておいて決して損をする作品ではない。

 なお安彦良和氏はこの3年後の1986年に、自身が漫画原作を担当した「アリオン」で再び監督となる。またさらに3年後の1989年には「ヴィナス戦記」の監督となる。こちらも氏は原作漫画を執筆し、劇場公開された。また「ジョウ」から「アリオン」の間では「巨神ゴーグ」がテレビアニメとして放送され、こちらでも総監督として仕事をしていた。しかしやがて漫画一本に仕事を絞り、現在に至る。そもそもアニメ業界に未練はないようなので、ご本人は納得していらっしゃるようである。しかしアニメファンにとっては、その力量を惜しむ声は後を絶たない。できればもう一度アニメの舞台に戻って、その力をふるっていただきたいと思うのだが、それはこちらの身勝手だろうか。

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